
せこの「アーセナル・レビュー」第16回
ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第16回では前回に続いてCL準々決勝レアル・マドリー戦をレビュー。魔境サンティアゴ・ベルナベウを1-2で攻略した2ndレグを振り返る。
PK判定をめぐるホールディング過敏の裏と表
本拠地エミレーツスタジアムでは、昨季王者レアル・マドリーを相手に3-0という大きなアドバンテージを手にしたアーセナル。ライスの直接FK2発という理不尽さで試合をこじ開けて展開を一気に優位に進めた1stレグとは異なり、2ndレグでは敵地サンティアゴ・ベルナベウに乗り込んで残り90分をクローズしなければならない。CLで数々のドラマを生んできた魔境で、いつもの慎重さを見せられるかどうかがポイントとなる。
そんな「普段通りの姿でいられるか?」という命題を、前回対戦と同じスタメンが並ぶアーセナルは立ち上がりからクリアしていく。マドリーの攻撃をライス、トーマスというダブルボランチが止めると、彼らのカットを起点にマルティネッリ、サカの両ウイングにボールを預けて敵陣に攻め込んでいくなど、変わらぬ振る舞いができていた。
The Arsenal
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— Arsenal (@Arsenal) April 17, 2025
退場したカマビンガに代わって出場停止明けのオーレリアン・チュアメニが中盤の底に入り、その横にバルベルデを並べるために、モドリッチを外してバスケスを右SBに置いたマドリーは、ビニシウスが左サイドで積極的なプレスバックを見せたのも変更点だろう。
本来は味方に守備を任せて[4-4-2]の[2]として前線に残りがちだが自ら下がり、ボールを奪えばキャリーで陣地回復を行うなど、出し惜しみなく早々にエネルギーをフルスロットルで使っていくようなスタンス。さらに左サイドに流れるムバッペと共闘しファストブレイクに移行できれば、逆サイドのロドリゴを加えた3人で素早くフィニッシュを狙う序盤となった。
試合が動きかけたのは10分過ぎ。前触れなく唐突に行われたオンフィールドレビューでアーセナルのCKまで遡ると、ペナルティエリア内でメリーノを引っ張り倒したアセンシオのホールディングがレビューされ、主審はイエローカードとともにPKを提示。キッカーのサカはタイミングを外すスピードの緩いキックを左中央に蹴ったが、同じ方向に飛んだクルトワが残す長い腕に阻まれ先制を逃す。
思わぬビッグチャンスをモノにすることができなかったアーセナルは、PK失敗を境にミドルゾーンで構える姿勢が崩れてしまい、自陣の低い位置に釘づけになってしまう。もちろん受けに回ってもローブロックで跳ね返すことができるチームではあるが、1つのミスやアクシデントが失点と背中合わせになりかねない場所で、長い時間を過ごすのは得策ではない。理想はボール保持で息を整えながら時計の針を進めていくことで、18分に偽SBとして中央にパスコースを作りながらボールを受けて運びファウルを誘ったルイス・スケリーや、2分後にアーセナルの自陣スローインを蹴り返してペナルティエリア右奥へと抜け出したムバッペの仕掛けをゴールキックに変える完璧な対応を行ったサリバが、チームに落ち着きをもたらしていた。
Securing the area.
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Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。