
太陽黄焔章 第22回
開幕から好調を続けているだけでなく、その魅力的なスタイルも称賛を集めている2025年の柏レイソル。そんなチームの中でも水を得た魚のように躍動しているのが、左ウイングバックの位置で果敢に攻撃参加を繰り返している小屋松知哉だ。もちろん昨季までも献身的なプレーは際立っていたが、自身の担うべきタスクも整理されたことで、より怖いエリアで、怖い仕事を遂行する回数が増えている。小屋松に訪れているこのポジティブな変化を、鈴木潤が多角的にあぶり出す。
勝負の1年。合致したリカルド監督の構想と小屋松の希望
リーグ戦第5節終了時点で3勝1分1敗の4位。第5節で鹿島アントラーズに屈したものの、開幕戦では鬼門の地・ベスト電器スタジアムで苦手としてきたアビスパ福岡を下し、1−1のドローに終わった第2節の川崎フロンターレ戦も終始相手を圧倒した。続くセレッソ大阪戦では鮮やかな逆転勝利を飾り、第4節ではホーム開幕戦を迎えて勢いづく浦和レッズに完勝を収めている。
今季から指揮を執るリカルド・ロドリゲス監督によってボール保持の哲学を植え付けられた柏レイソルは、魅力のあるフットボールを展開するチームに生まれ変わった。
この攻撃的スタイルの中で、躍動感あふれるプレーを披露しているのが小屋松知哉だ。
監督が替わればサッカーが変わり、選手の起用法も変わる。2022年の柏加入以来、FW、トップ下、左右のサイドハーフと、どちらかというと攻撃的なポリバレントとしての起用が目立っていた小屋松だったが、リカルド監督指揮下では主に左のウイングバックで起用されている。
「これまでのサッカー人生で培ってきた自分の良さを取り戻して、表現することが今年の目標。それをやったうえで数字が付いてくる」
これは1月9日のシーズン始動日に聞いた、小屋松が掲げた2025年の目標である。
では、ここで言う「自分の良さ」とは何か。その問いかけに、小屋松は凛とした表情で「サイドでの仕掛けと1対1のドリブル」と明言した。
プレシーズンには、リカルド監督は選手一人ひとりと面談を行い、そこで選手自身の希望ポジションを聞いた。この面談の場で、小屋松は「他のポジションを捨ててでも、サイドで勝負がしたい」という意思を指揮官に伝えた。
そしておそらくはこの時点で、リカルド監督の構想と小屋松の希望はすでに合致したと推測される。
浦和戦のファインゴール。約1年9か月ぶりに訪れた歓喜!
話は2017年、リカルド監督が徳島ヴォルティスを率いていた来日初年度に遡る。時を同じくして、小屋松も名古屋グランパスから京都サンガF.C.へ移籍し、両者はJ2という同じ土俵で顔を合わせた。しかも2017年のJ2第2節にて、リカルド監督の徳島に初黒星をつけたのは京都であり、当時の京都を率いていた監督が、柏の現フットボールダイレクターの布部陽功というつながりまである。この第2節は、ベンチスタートだった小屋松には最後まで出場はなかったものの、以降の徳島と京都の試合では、常時スタメンで出場し続けた。
「京都は[4-3-3]でシステムは違いますけど、左のウイングで今と同じような役割でした」(小屋松)
リカルド監督の脳裏には、そんな“左ウイング・小屋松”のイメージが強く焼き付いていたのだろう。それを裏付ける言葉が、2月9日のちばぎんカップ終了後の記者会見にて、出色のパフォーマンスを見せた小屋松への評価だった。……



Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。