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24-25のオランダ勢は「普通じゃない!」。PSV、フェイエノールト、アヤックス――三者三様の欧州カップ戦生存術

2025.02.27

VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#13

エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。

第13回では、欧州カップ戦のリーグフェーズとプレーオフ経て見事に16強入りを果たしたCL出場組のPSVとフェイエノールト、EL出場のアヤックスーー三者三様の生存術に迫る。

待望のCL16強入り!PSV逆転の役者はMFの9人衆

 29勝4分1敗、勝ち点91という圧倒的強さ。111得点21失点、得失点差+90という脅威のスタッツ。2023-24シーズンのPSVはオランダリーグ史に残る好チームだった。名将アルネ・スロット率いるフェイエノールトも例年なら優勝間違いなしの勝ち点84を積み重ねたが、完成されたサッカーを披露したPSVの強さを認めるしかなかった。

 だから1年前、ベスト16でCLの舞台から去ったのは、PSVに関わる人たちにとって悔やんでも悔やみきれなかった。ドルトムントに1分1敗(1-1、2-0)とスコアの上では完敗だったが、試合内容は決して悪くなかった。その対戦相手が決勝戦まで勝ち進むのを見て、彼らは「もしPSVがドルトムントを下していれば、さすがに決勝進出は無理としても、かなり上まで行けたのに……」とほぞを噛んだ。

 それに引き換えPSVは今、エールディビジで苦しんでいる。昨季同様、開幕からロケットスタートを切った王者は折り返しの17節を終えた時点で、2位アヤックスに勝ち点差6をつけていた。しかし彼らは年明けから極度の不振に陥り、23節終了時点で首位アヤックスに勝ち点5のリードを許して2位に後退している。そのため、ユベントス相手にCLノックアウトフェーズのプレーオフを戦うPSVに対する期待値は低かった。

 だが、彼らはやってのけた。アウェイの第1レグを2-1で落としたものの、「ホームなら勝てる」という手応えをつかんだPSVは2月19日に行われた第2レグの後半からペースを握り、2-1で90分を終えた。延長戦ではセットプレーからCBフラミンゴが2試合合計を4-3にする貴重なゴールを決め、アーセナルが待つ16強に駒を進めた。

 その本拠フィリップス・スタディオンのピッチに立ったPSVイレブンは、かなりユニークな布陣だった。守護神のワルテル・ベニテス、点取り屋のルーク・デ・ヨングを除く9人は全員MFとしての資質を持ち合わせたフィールドプレーヤーだったのだ。

 4バックでCBに1人、パサータイプを置く場合、もう1人のCBは対人の強さ、カバーリングの広さを併せ持つ本格的な守備のエキスパートと組ませるのがセオリーだろう。昨季のPSVはパサー型のオリビエ・ボスカリと、ストッパー型のアンドレ・ラマーリョ(現コリンチャンス)ないしは右SB兼CBのヨルダン・テゼ(現モナコ)がコンビを組むのが基本だった。

 しかし今季のCBコンビは右にフラミンゴ、左にボスカリとMFとしての資質も高い2人が組むのが原則。しかもユベントスとの2試合ではSBは右にリチャード・レデズマ、左にマウロ・ジュニオールと、もともとは10番タイプの選手が起用されている。だからPSVのDFラインは、パサー、ドリブラー、チャンスメイカーだった頃の名残をとどめながらビルドアップをしたり、攻撃に参加したりしていた。

 中盤の3人はいずれもテクニシャン。アンカーのイェルディ・スハウテンは攻守に正確なプレーを見せる、地味だが重要なMF。ジェイ・フェールマンは攻守をつなぐ役割をしながら、必殺のスルーパスとミドルパスでチャンスを作るキックの達人だ。イスマエル・サイバリは足下のテクニックが高い上、フィジカルにも秀でており、相手の守備者にとっては厄介な存在である。スハウテンが「守備もできるパサー」という特徴を持つこともあって、PSVの中盤は攻撃に重きを置いた構成だ。

 ウイングは左にノア・ラン、右にイバン・ペリシッチ。前者は10番としても輝けるタイプで、自在にボールを操りながら本能のままにクリエイティブな仕事をする。後者はサイドアタッカーとして有名だが攻守に完成されており、まるでオールラウンダーのようにピッチの上で振る舞う。

 GKとCFを除き、MFとしての能力を帯びる9人が各ポジションに散らばるPSVは前半こそ、ユベントスのフィジカルに悩まされたが、後半に入ってからパスワークが冴え始め、ほぼ理想のサッカーをすることができた。

 6人の交代枠のうち5枚は左SB(タイレル・マラシア)、CB(アルマンド・オビスポ、アダモ・ナガロ)、本格派ウイング(ヨハン・バカヨコ、スハイブ・ドゥリウチ)の“職人”が投入され、個々のタスクがより明確化された。その最中にフラミンゴがCBからMFに1列上がったが、彼は中盤での経験も豊富なのでまったく危なげなく仕事を果たした。

ファン・ペルシー招へいのフェイエノールトは異常事態

 PSVがユベントスを下して歓喜に浸った前日、フェイエノールトもまたミランをCLの舞台から引きずり落とすアップセットを演じていた。……

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Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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