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万単位の観衆、放映権料は5年125億円…右肩上がりのイングランド女子リーグで、浜野まいかも「誇り」と「責任」を胸に

2025.02.01

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #13

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第13回(通算247回)は、観客動員数や放映権料、移籍市場の活況やファンの要求度まで、ますます高まり続けるイングランド女子サッカー界の興隆とわくわく感を、ほぼ満員のスタンフォードブリッジからレポート

増える“ホーム”開催、埋まるスタンド、女子特化の外国人投資家も

 スタンフォードブリッジでのチェルシー対アーセナルに、3万4302人の観衆。プレミアリーグであれば、何の変哲もない数字だ。しかし、1月26日の一戦は、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)での対決だったのだから話は別。女子チーム専用のホームスタジアムでは、最大でも4000人台の観衆の前でプレーするチェルシー・ウィメンが、男子チームと同じクラブ1軍のホームを9割近く埋めて戦ったのだ。

 これまでにも、女子のホームゲームがスタンフォードブリッジで開催されたことはある。だが大抵は、チケット販売の対象となるスタンドが1つか2つに限られた。それが今回は、四方の全スタンドからファンが声援を送る中でのリーグ戦となった。そのピッチに後半頭から立ったチェルシーの浜野まいかは、「本当に夢のような舞台でした」と試合後に語っている。

 浜野は、今季WSLを戦う日本人選手最年少の20歳。彼女が生まれる前のイングランド女子1部を観ている者としては、「本当に夢にも思わなかったような状況」と言ったところだ。

Photo: Shinobu Yamanaka

 まずは、会場に向かう地下鉄の車内。向かいの座席には、「GOTHAM FC vs CHELSEA FC」とあるマフラーをした女性がいた。今季プレシーズン中に購入した観戦グッズなのだろう。アメリカ遠征自体が、男子チームとは違ってクラブとは別の団体とされ、プロ集団でもなかった当時の女子チームには考えられなかったことだ。

 今では逆に、女子に特化したクラブ買収に動く外国人投資家も現れるようになっている。この試合の3日前、日本女子代表キャプテンを務めるMF、熊谷紗希の移籍が発表されたロンドン・シティ・ライオネス(女子2部)が、その一例だ。

 スタジアムに着くと、キックオフ2時間前から人々が集まり始めている光景も、男子の試合当日と変わらない。選手通用口の隣にあるメディア用の入り口に向かうと、早くから選手の会場入りを待つファンが列をなしている。スタンフォードブリッジでは、抽選で当たったチケット購入者たちが、チームバスを降りて通用口へと向かう選手たちを迎えられるようになっており、女子のホームゲームも例外ではない。20年ほど前、この日の対戦相手もプロチームではなかった頃、当時のアーセナル・レディーズに在籍していた日本人選手をアウェイゲームに車で送り迎えした際にスピードカメラに引っかかった記憶が蘇ってきた。

Photos: Shinobu Yamanaka

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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