新・戦術リストランテ VOL.47
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第47回は、リーガの首位決戦バルセロナ対アトレティコ・マドリーを通して、攻撃型と守備型の相克の歴史について思いを巡らせてみたい。
「2点目を取れなかった」がバルセロナの敗因
リーガ第18節、バルセロナ対アトレティコ・マドリーの首位決戦がありました。30分にペドリのゴールでバルセロナが先制しますが、60分のデ・パウルの得点でアトレティコが追いつきます。決勝点はロスタイムの96分、セルロートがゲット。
クリスマスを前にアトレティコが首位、2位レアル・マドリー、3位バルセロナで年越しとなりました。
バルセロナ、アトレティコは対照的なプレースタイルです。どちらも持ち味は発揮できていて、結果はアトレティコですがどっちも負けていない試合だったと思います。
ペドリが素晴らしく、先制点だけでなく4回の決定機を演出していました。キックの選択とパスコースの選定が抜群で、半分決めていればバルセロナが勝っていたはずです。
アトレティコは[4-4-2]でスタートしながら、押し込まれたら5バックにシフト。終盤は[5-4-1]の専守防衛でしたが、不意にめぐってきたチャンスをものにしています。決勝点となったカウンターアタックについては、かつてメノッティが「突然芽生える恋心のようなもの」という名言を残していた通りでして、予期できる類のものではないでしょう。ただし、その時がやってきたら逃さなかったアトレティコはエライ。
ラフィーニャのボックス内へ差し込んできたパスをカットした後、右に開いたデ・パウルへつなぎ、その間にデ・パウルの内側を猛然と走り抜けたモリーナへパス。モリーナの低いクロスをセルロートが合わせました。崩し方はハイライン攻略のお手本とも言える形です。おそらく狙っていた形だと思いますが、チャンスは3回くらいしか作れていません。それよりも再三のピンチを防いだGKオブラクの好守と、バルセロナの攻撃に耐え続けた守備力が決め手でしょう。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。