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レアル・マドリーの“ボール出され”問題。諸悪の根源が露になったミラン戦の完敗劇

2024.11.15

サッカーを笑え #29

ビルドアップ特集」でバルセロナのバイエルン戦でのボール出しを解説したばかり。同じ目でCLリーグフェーズ第4節レアル・マドリー対ミラン(1-3/11月5日)を見ていたら、今季のレアル・マドリーの問題、というのは「ボール出しの問題」であることがよくわかった。いや、正確に言うと、“ボール出され”の問題だ。

 簡単にボールを出され過ぎるから、相手ボールのたびに自陣深くへ押し込まれて重大なピンチとなり、ボール回復点が後ろだから攻撃はロングボールをビニシウス&ムバッペに送り込む、という単調なものにならざるを得ない。もちろんそれでも勝てるが、安定した成績は残せない。

 レアル・マドリーの試合を見ていると、一定のパターンの繰り返しであることがわかる。

 相手GKから快適にボールを出される→ボールを自陣深くに運ばれる→ゴール前でやっとピンチをしのぐ→ロングカウンターに出る→シュートが外れたりして終わる。で、最初の相手GKのボール出しに戻り、また下がっての守備が始まる。つまり、相手に攻め込まれないと自分たちの攻撃の時間が始まらない。

 これ、相手が急いで攻めて来てくれれば自分たちの攻撃もすぐに始められるけど、押し込まれてからバックパスやサイドチェンジを多用されてボールキープに入られると、ボールを追わされ体力ばかり消耗し、時計の針ばかりが進んで、その間、自慢の2トップが宝の持ち腐れになる。相手に主導権=「ボールを使って何をするかを決める権利」を握られっ放しだからである。

 敵陣で波状攻撃をかける、というのが得点の確率が最も高く失点の確率が最も低い。つまり、「勝利への最短距離」だと思うが、ボールをあれほど簡単に出されている限り、ロングカウンターに頼っている限りは、そういうサッカーはできない。というか、レアル・マドリーがやっているのは最短距離とは正反対の「勝利への遠回り」にしか見えない。

 ロングボールカウンターに頼っているのは、ポジティブに考えれば「裏抜けさせれば世界一のムバッペ&ビニシウスがいるから」だが、ネガティブに考えれば、その同じコンビが「相手のボール出しに有効なプレスをかけられないから」である。クロースが抜けた影響は大きい。しかし今季のレアル・マドリーの諸悪の根源は「ボール出され」にあるのではないかと、今は思う。

 最終ラインが下がってしまうこと、前へ出て守れないこと、相手の攻撃のたびに重大なピンチになること、ロングカウンター以外でチャンスを作れないこと、相手を圧倒できないこと、安全にリードを守り切れないこと……などの現象がすべて説明できるし、ボールが出されることから始まって、それらが連鎖的に起こっていくからだ。

 以下、ミラン戦の分析に入る。

 まずスターティングメンバーと並び。

【レアル・マドリー】
攻撃時&守備時

【ミラン】
攻撃時

守備時

3分:ミランのボール出し(リスタート)

 前の状況:ムバッペのシュートがゴールラインを割り、ゴールキックからのリスタート。

 ミランの並び:「3人によるボール出し」で、(ミラン側から見て)右から並びはチャウ、メニャン、トモリ●(=ボール保持者、以下同)。立ち配置はゴールエリアのラインの延長線上に開いて右がチャウ、中央にメニャン、ゴールエリアの左角にトモリ。

 ボール出しのメカニズム:トモリがボールをメニャンに渡す→メニャンが足下にボールを置いて間を作る→トモリはバックステップして左に開き、3人が左右対称に一直線に並ぶ→相手を引き付けてメニャンがフォファナへパス→フォファナとトモリがパス交換→フォファナがテオ・エルナンデスへ展開→テオがプリシッチへパス→テオとレオンが裏抜けを仕掛けるも、プリシッチのパスがぶれてミリトンがカット。

 レアル・マドリーの対応:「お粗末」の一言。ムバッペがメニャンにプレスするも、ビニシウスがフォファナへのパスコースを空けて簡単にパスを通される。フォファナが前を向いた時点でボール出しは終了した。

 ムバッペのGKへのプレスは大回りしてトモリへのパスコースを消しつつのもので、これはセオリー通り。この時点でビニシウスの最優先事項は中央のフォファナへのパスをさせないこと――右サイドへ追い込むこと――になったのに、棒立ちの怠慢プレーでそれを許した。

 ボール出し後の崩し:ボールの動きはフォファナ→トモリ→フォファナ→テオ→プリシッチ。まずフォファナ●+テオ対バルベルデが2対1となり、バルベルデが抜かれる。次にテオ●+プリシッチ対チュアメニが2対1となり、チュアメニが抜かれる。最後にプリシッチ●+テオ+レオン対ルーカス・バスケス+ミリトンが3対2となって抜かれる寸前、パスの精度が悪くてカットされた。パスが通っていればルニンとの1対1だった。

 ビニシウスの怠慢から生まれたボール出し成功によって生まれた数的優位を生かし、ボールを動かすたびに次々と数的優位を作り続けてミランが攻め込んだ。レアル・マドリー側からすれば、ムバッペ、ビニシウス、バルベルデ、チュアメニが次々と抜かれて守備者として置き去りにされた(抜かれた、無効にされた)ということになる。

 解説:「3人によるボール出し」で最初からGKのメニャンがボールを持たず、左CBのトモリが持ってからGKに渡す形にするのは、メニャンを何回でもボールタッチできる状態にするためだ。

 トモリを経由することで、メニャンはボールを好きなように動かしてパスを出すことができる。もしこれがメニャンからのリスタートだと置いたボールを蹴るしかできないから、パスの種類もコースも限定されてしまう(一昔前はみんなこっちで、ロングキック一辺倒だった)。CB経由のリスタートは、モダンなGKからのショートパスによるボール出しを有効にするための戦術的な要請だった、と言える。

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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