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アーセナルはライスとウーデゴールの不在をどう乗り越えた?ノースロンドンダービーで光った粘り強さの正体

2024.09.18

せこの「アーセナル・レビュー」第13回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち”グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第13回では、デクラン・ライスとマルティン・ウーデゴールという主力2人を欠く中、ノースロンドンダービーで勝利を手繰り寄せた粘り強さを分析する。

 2024-25シーズンこそ悲願のプレミアリーグ優勝を目指すアーセナルが迎えた最初の関門は、難敵ぞろいの序盤戦。ここまでの3試合もウォルバーハンプトン、アストンビラ、ブライトンという曲者と戦ってきたが、イタリアに遠征するCL初戦のアタランタ戦を間に挟んでトッテナム、マンチェスター・シティとのアウェイ連戦となる代表ウィーク明けの1週間は、文字通り山場となっている。

 そんな重要な期間にもかかわらず、アーセナルを取り巻くチーム状況は芳しくはない。直近のブライトン戦で退場したデクラン・ライスが1試合の出場停止処分、さらには代表活動でマルティン・ウーデゴールとリカルド・カラフィオーリを失ってしまった。すでに離脱をしているミケル・メリーノ、冨安健洋に続き、限られたスカッドでこの1週間に臨んでいる。

 中でもライスが欠場を強いられたノースロンドンダービーは、まさしく正念場と言えるだろう。その影響を与える範囲の広さと90分出力を落とさずに戦える持久力の高さは唯一無二。オープンな打ち合いが醍醐味のトッテナム戦において、最重要人物を欠いたと言っていい。昨季のビッグマッチは軒並み強度を高めることで好成績を残してきたアーセナルは、その核を欠いた縛りプレーでゲームプランを組まなければならない。

トーマスの泣きどころを突くマディソンの移動

 そんなアーセナルのフォーメーションは、右からカイ・ハバーツとレアンドロ・トロサールが縦関係気味の2トップで並び、トーマス・パーティとジョルジーニョが中盤を組む[4-2-3-1]と表現するのが適切だろう。

 普段はライスのようにアンカー役でないボランチが高い位置までプレスに出ていくか、あるいはサイド攻撃の3人目としてトップ下のウーデゴールと均質的な役割を担うことが多い。だが、ダブルボランチに入ったトーマス・パーティとジョルジーニョはともに中盤の底にとどまり、攻撃でも守備でも無理に前に出ていくことはしなかった。大幅に配置をいじっているわけではないが、キャストを代えたことでポジションのバランス調整をかけたと言える。

 したがってアーセナルは高い位置からトッテナムにプレスをかけていくことはしなかった。[4-4-2]でミドルブロック、もしくはローブロックを構える形で相手のボール保持を待ち受けるスタンス。強度勝負での勝算がいつもほどないことを自覚してのプランニングだ。

 対するトッテナムはオーソドックスなプランとメンバー。[4-3-3]の基本形をベースに後方の[2-3]型でビルドアップを行っていく。この3の両脇に立つ選手がビルドアップの肝で、[4-4-2]の相手であれば2トップの脇に立つことで起点を作る。昨季まではSBのデスティニー・ウドジェやペドロ・ポロが3の両脇に入ることが多かったが、左インサイドハーフのジェームズ・マディソンやアンカーのロドリゴ・ベンタンクールがバリエーションをつけて、同じ陣形を異なる構成で組むのが今季の特徴だ。

 中でも効果的なのは、マディソンがハバーツの脇に降りるパターンだ。同サイドの裏や逆サイドなど展開力がある選手がフリーになりやすいところに顔を出すことによって、次の局面の景色を広げることができるというメリットがある。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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