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戸田監督が施す決定力不足解消術は「練習」にあり!2戦8発の相模原で伊藤恵亮が体現した信念

2024.05.24

相模原の流儀#4

2023シーズンにクラブ創設者の望月重良氏から株式会社ディー・エヌ・エーが運営を引き継ぎ、元日本代表MFで人気解説者の戸田和幸を指揮官に迎えたSC相模原。ピッチ内外で体制を一新しながらJ2復帰を目指す中、“緑の軍団”が貫く流儀に2021年から番記者を務める舞野隼大氏が迫っていく。

第4回では、J2で下から2位タイの10得点と決定力不足に喘いでいた第13節時点から一転、続く天皇杯予選決勝と翌節の2戦で8発を叩き出したその解消術に迫る。

“鉄板メンバー”がいない理由は「型を決め過ぎない」意識

 詰まっていたケチャップがドバドバと飛び出していく。そんな現象がSC相模原では起きている。

 J3リーグ第12節・FC大阪戦、第13節・Y.S.C.C.横浜はいずれも主導権を握り、2戦合計で20本のシュートを放ったがスコアレスドローに終わった。良い内容の試合をしながらもゴールが伴わず、勝ち点3を得られずにいた。

 YS横浜との試合後の記者会見では、「決定力」の不足を投げかける質問も挙がった。それに対しての戸田和幸監督の回答はシンプル。「基本的には練習ですね」というものだった。

 「(引き分けですけど)勝ち点は取っているわけだし、相手にそんなにチャンスは作らせずに無失点で終えられている。今季ここまで13試合で8失点ですが、昨季のラスト5試合が2失点で、実はそこからずっと続いてるものが土台になっています。もちろんひたすら守るわけじゃなくて、まずは(プレスをかけるため)前に出ることを前提にフットボールを考えていますし、選手個々のフィジカルも上がってきています。あとは決め切ることになるんでしょうけど、これはもう信じて練習するしかない。『そんな答えですか?』って思われるかもしれないですけど、僕はそれでいいと思っている」

 グラウンドでの時間がピッチ上で見せるパフォーマンスの“源泉”になっているというのが、指揮官の根本的な考え方。毎試合毎試合、1週間のトレーニングでのパフォーマンスを見てメンバーを選考し、競争と活力を高めようと日々促進。その上で状態の良い選手をチョイスしながら、相手の戦い方を分析した上でどう組み合わせるかを熟考している。

 「上のカテゴリーなら、チームによってはチームとしての絵がまずはあって、その絵に合わせた選手を取ると思います。でもうちの場合は(J3なので自由に選手は獲得できず)いろんな特長を持った選手がいて、その選手たちをどう組み合わせて、チームの上にどう乗せるか。チームとしてあまりガチっと決め過ぎてしまうとハマらない人も出てしまうので、型を決め過ぎないようにとは昨季から意識している。選手の特長を使ってゴールに迫れるようにしたいし、いろんな組み合わせがあったほうがいいのかもしれない。競った状態で選手が切磋琢磨してチーム力が上がれば、バリエーションが持てる。“鉄板メンバー”がいるチームもあるかもしれないけど、うちはないですね」と相模原ならではのアプローチで、結果を追求する。

J3第13節YS横浜戦後の戸田監督。相模原はクラブ公式YouTubeチャンネルでリーグ戦各試合後会見の模様を公開している

コンバートだけじゃない。伊藤と前田の才能を開花させた前提

 「選手の持っているものを開花させたい」――戸田監督には、そんな信念もある。

 その最たる例が、アタッカーの伊藤恵亮だ。2022年9月に相模原の特別指定選手として承認され、昨季に大卒ルーキーとして正式加入した伊藤はサイドハーフやWG(ウイングバック)、SBで試されてきたが、出場機会をつかめず、夏に栃木シティフットボールクラブへ期限付き移籍をしていた。初年度は出番をつかめなかったが、彼ならではの良さはある。……

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Profile

舞野 隼大

1995年12月15日生まれ。愛知県名古屋市出身。大学卒業後に地元の名古屋でフリーライターとして活動。名古屋グランパスや名古屋オーシャンズを中心に取材活動をする。2021年からは神奈川県へ移り住み、サッカー専門誌『エル・ゴラッソ』で湘南ベルマーレやSC相模原を担当している。(株)ウニベルサーレ所属。

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