REGULAR

試行錯誤のスパレッティ、[3-4-2-1]はイタリア代表の新オプションになるか?

2024.03.29

CALCIOおもてうら#9

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、EURO2024に向けた試行錯誤が続くスパレッティ新体制のアッズーリが、ベネズエラ戦とエクアドル戦で試した[3-4-2-1]の狙いにつて分析する。

 6月にドイツで開催されるEURO2024に向けてシーズン中最後のテスト機会となった3月の代表ウィーク、「アッズーリ」ことイタリア代表はアメリカ東海岸に遠征し、南米ランキング中位の2チームとフレンドリーマッチを戦った。結果はベネズエラに2-1、エクアドルに2-0といずれも勝利。それ自体は悪くないのだが、このチームがスタート以来抱えてきたいくつかの課題は手つかずのまま残った感もあり、その点では一抹の不安も残った2試合だった。

 このアメリカ遠征、ルチャーノ・スパレッティ監督は、2つの「テスト」を行う機会と捉えているように見えた。1つは、これまで使ってきた[4-3-3]を補完する戦術オプション、すなわち3バックの機能性を確かめること。もう1つは、EURO本番に向けて戦力的に不安が残るポジションについて、選択肢となり得る何人かの選手を試合の中で(それ以前にアッズーリというグループの中で)間近に観察し評価することだ。

 いずれも、すでに固まったチームの完成度を高めるというよりは、まだ固まっていないチームの可能性を模索するための試みである。つまり、昨年8月に就任して、9月、10月、11月という3度の招集機会に計6試合を戦った段階で、「スパレッティのイタリア」は今なお構築途上にあるということ。逆に言えば、目前に迫ったEURO2024に向けて準備が整っているとはまだまだ言い難いということだ。

中央ルートからサイドルートへ。しかし足りないポジションがある

 昨年10月、2度の代表招集とイングランド戦を含むEURO予選4試合を終えた時点で、筆者はスパレッティ体制下におけるイタリアのテーマは「ジョルジーニョ&ベラッティシステムとの訣別」にあると考察した。

 EURO2020で優勝したチームを最も強く特徴づけていたのは、この2人の小柄でテクニカルなセントラルMFの繊細なパスワークによる中央ルートからのビルドアップとポゼッションだった。しかし、マルコ・ベラッティがカタール移籍により事実上第一線を退き、ジョルジーニョもアーセナルでコンスタントな出場機会が得られないという状況で、スパレッティ監督は彼らの不在を前提に代表のプロジェクトを構築する必要に迫られた。

 そこで打ち出されたのは、ロベルト・マンチーニ前監督時代からの基本システム[4-3-3]、そして後方からのビルドアップとポゼッションによるゲーム支配に基盤を置くというベースを維持しながらも、中央よりもサイドからのビルドアップに軸足を移し、縦志向を強めるという狙いだった。その後、11月までの6試合でチームとしてのアイデンティティはある程度確立されたように見えたが、その一方では明らかな欠落点が露呈することにもなった。それは、ビルドアップの質を担保するレジスタ、そして攻撃の中核を担うCFという2つのキーポジションの人材不足である。

 それを踏まえれば、この3月の代表ウィークは、6月のEURO本番に向けて上記の欠落を補完する何らかの解決策を模索する、ほぼ唯一の機会だったと位置づけることができる。そこでスパレッティが取り組んだのが、上で触れた2つの「テスト」、すなわち3バックという戦術オプションとキーポジションの選択肢となりうる選手の評価だったというわけだ。……

残り:3,120文字/全文:4,822文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

RANKING