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「40~50クラブが興味も、プレミア勢は不参加」水面下で進むスーパーリーグ構想のその後

2024.03.01

CALCIOおもてうら#5

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

「すでに40~50のクラブが興味を示している。表向きそう表明するわけにはいかないので黙っているだけ」(A22のライヒャルトCEO)。今回は、12月の欧州司法裁判所の裁定でFIFAやUEFAが活動を妨害できなくなったスーパーリーグ構想のその後の展開を解説する。

 いささか旧聞に属するが、1月26日の『フィナンシャル・タイムズ(FT)』にユベントスの前会長アンドレア・アニエッリの長いインタビューが掲載された。

 2010年にユベントスの会長に就任し、この名門クラブにセリエA9連覇、CLファイナリスト2回という黄金時代を築いたアニエッリだが、昨シーズン半ばに発覚した不正会計問題(セリエAでの勝ち点10減、UEFAコンペティション出場権剥奪という重い処分をもたらした)の責任を取って会長を辞任、その後は公の場から姿を消していた。

前ユベントス会長アンドレア・アニエッリ

 FTのフットボールビジネス専門記者ムラド・アーメドと昼食を共にする形で行われたこのインタビューの中で、1年数カ月ぶりに沈黙を破ったアニエッリは、2021年4月に起こったスーパーリーグ騒動について、当事者(というよりも首謀者)としての立場からいくつかの興味深い事実を明らかにしている。

ECAとUEFAが検討していた「ボーア・プロジェクト」とは?

 UEFA傘下のクラブ連合組織であるECA(ヨーロピアン・クラブ・アソシエーション)の会長として、UEFAチャンピオンズリーグの新フォーマット策定に参画していたアニエッリが、それと二股をかける形でフロレンティーノ・ペレス(レアル・マドリー会長)とともにスーパーリーグのプロジェクトを水面下で進め、4月19日深夜に「ザ・スーパーリーグ」構想を打ち上げる前夜までUEFA側に立っていると装って、信頼関係にあったアレクサンデル・チェフェリン会長を直前で裏切ったというのはよく知られた話だ。

 今回明らかにされた中でとりわけ注目に値するのは、そこに至るまでの経緯。アニエッリがペレスからスーパーリーグ参加を打診され、中心的な立場で参画したのはその約半年前、2020年11月のことであり、それまではECAの内部でスーパーリーグよりもさらに「過激な」内容を持つ独立コンペティションを立ち上げるべく、パリSGのアル・ケライフィ会長とともにプロジェクトを進めていたというのだ。

 その後2月20日付の『レキップ』がスクープした記事によれば、このプロジェクトは1922年にノーベル物理学賞を受賞し、原子爆弾の開発でも重要な役割を果たしたデンマーク人物理学者ニールス・ボーアにちなんで「ボーアBohr」というコードネームで呼ばれており参加する24クラブが事実上国内リーグを離脱する形で「スイス方式」の32試合(H&A各16試合)を戦い、上位16チームが決勝トーナメントに進出するというフォーマットだったとされる。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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