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シャビ・アロンソのレバークーゼン、誘って食いつかせる「近距離3+2ビルドアップ」

2024.02.07

新・戦術リストランテ VOL.1

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第1回は、今季無敗でブンデスリーガ首位のまま次節はいよいよバイエルンとの首位攻防戦に臨むレバークーゼンを取り上げる。ちなみに、次回はそのバイエルン戦をレポートする予定なので、お楽しみに!

トータルフットボールの正統後継者

 シャビ・アロンソ監督率いるレバークーゼンの印象をひと言で表すなら、「トータルフットボールの正統後継者」でしょうか。

 トータルフットボールの後継者と言えば、バルセロナやマンチェスター・シティが挙げられるわけですが、「これがトータルフットボール」という定義は難しく、極めて個人的な感覚になってしまうのですが、「見ていて何か気持ちが良い」「個々が図抜けている印象はないのにチームは優れている」「プレースタイルの設計、思想が良い」というところが挙げられます。トータルフットボールの元祖である1970年代のオランダ代表、アヤックスと似た匂いがするとポイントが高くなる感じです。

 レバークーゼンにはビルツというスターはいますが、例えばレアル・マドリーやブラジル代表みたいにすべてのポジションにスーパーな選手が並んでいるわけではありません。もちろん優れた選手は何人かいますが、個々の能力でいえば突出してはいない。しかし、プレーすると実に輝かしい。個々の集積としてではなく、チームとして優れている。これはクライフ以外そこまで傑出していなかったオランダ代表と似ています。つまり、チームとしてのプレーの狙い、それを実現するための建付け、調整の仕方等が美しい。そういう意味では「監督」のチームであり、レバークーゼンについてはシャビ・アロンソのチームなのだと思います。

スペースは「ある」ではなく「作り出す」もの

 シャビ・アロンソ監督の思考が端的に表れているのがビルドアップでしょう。

 レバークーゼンのシステムは[3-4-3]です。ビルドアップの際、3バックと2ボランチの距離が非常に近い。これは外見上、他にあまり見ない特徴になっています。

 3+2(3バック+2ボランチ)の距離が非常に近い。そして近い距離感でボールを動かします。何のためにそうしているかというと、相手を釣り出して、裏を取っていくためです。この原則がトータルフットボール的だと思います。スペースに対する考え方の違いですね。

 スペースが「ある」うちに攻め込むのではなく、スペースは自ら「作り出す」。いわゆる「擬似カウンター」に似ているかもしれません。

 例えば相手が[4-4-2]の守備ブロックとします。レバークーゼンの3バックに対してはFW2人がプレスします。すると、FWが動く分、そのFWの背後のスペースは必然的に広がります。そこへレバークーゼンのボランチが潜り込んでパスを受ける。釣り出して、背後です。

 さらに、レバークーゼンのボランチに相手のボランチがプレスしてきた場合、今度は相手のボランチの背後が空きます。そこへシャドーあるいはCFが下りてパスを受ける。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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