REGULAR

下平トリニータの「行き当たりばったり」が生み出す、エコロジカルな強さ

2023.06.23

トリニータ流離譚 第2回

片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、現在は下平隆宏監督とともにJ2で奮闘する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第2回は、あえて「余白を与えてくれる」(野村)サッカーを志向したことで、紆余曲折あった2023シーズン前半戦を総括する。

「決して盤石の2位ではない」(下平監督)

 J2第21節・ファジアーノ岡山戦は難敵にウノゼロで競り勝って、今季3度目の3連勝。勝ち点を40に伸ばして、大分トリニータは2位でリーグ戦を折り返した。

 首位の町田ゼルビアを勝ち点6差で追う自動昇格圏につけるとはいえ、到底、順風満帆という風情ではなく、下平隆宏監督も「決して盤石の2位ではない」と表情を緩めない。開幕3連勝と好スタートを切り、その勢いが現在につながっていると言えるものの、今季初黒星の第6節・大宮アルディージャ戦では0-3というスコア。第7節からは今季2度目の3連勝で再び上昇気流に乗った感もあったのだが、第10節からはビルドアップの弱点を突かれて3連敗。それを修正して2連勝で持ち直したかと思われたところで、第15節からは4戦白星なし。第16節のモンテディオ山形戦に至っては0-5という大敗を喫している。

 ただ、この乱気流気味な浮沈もある意味、チームビルディングの正当な過程であったとも言える。指揮2シーズン目を迎えた下平監督は今季、「共創」という造語をキーワードにボトムアップ方式のマネジメントにチャレンジした。そこに至った根拠は昨季の困難な経験にある。

 「このチームは戦術に頼りすぎる。狙いどころを一つ提示するとそればかりになってしまう」

指示を出す下平隆宏監督(Photo: OITA F.C.)

 盟友でもある片野坂知宏前監督が率いたチームを受け継いだ最初の年に、指揮官は頭を抱えた。前監督が6シーズンかけて築き上げた美しい型を誇る“カタノサッカー”の後遺症のように、新体制になっても選手たちは習慣的にその様式美をなぞろうとするのだ。その年は、前年の天皇杯準優勝によりチームとしての手応えを得た選手たちのほとんどが契約を継続し、組織の土台が残された状態で新体制に移行していた。それが当初は好材料と思われたものだったが、蓋を開けてみれば新指揮官が異なるアプローチでチームを作るにあたっては、結果的にむしろ足かせとなった様相だった。さらにはルヴァンカップ参戦とカタールW杯開催、コロナ禍が重なって開幕から11連戦、9連戦、7連戦という過密日程。新たな戦術を落とし込む間もなく、負傷者も続出して、とにかく目の前の試合をこなすのが精一杯でシーズン前半が過ぎた。

 その状況から抜け出すために下平監督が行った荒療治が、最初に落とし込もうとした[4-3-3]での戦術を御破算にして、フォーメーションを前指揮官が採用していた[3-4-2-1]に戻し、なおかつ戦術的要素を可能な限り排除する方策だった。戦術理解度の高い選手をあえてメンバーから外し、経験値は低くとも走力のある若手を多く起用して、攻守に勢いあふれる戦法へと切り替える。それが浸透してくると再び徐々に戦術要素を取り入れ、最終的にリーグ戦5位フィニッシュ。目標としていたJ1昇格への道はJ1参入プレーオフ1回戦でとざされたが、下平監督が大分で目指す戦いのベースの輪郭は、少しずつ浮き彫りになってきた1年だった。

「余白を与えるサッカー」から「型」の導入へ

……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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