REGULAR

「チャレンジのミスならOK」をどう捉えるか。柏レイソルが舵を切った井原体制が描くここからの航路図

2023.06.22

太陽黄焔章 第1回

柏レイソルが決断した。クラブへ数々のタイトルをもたらしてきたネルシーニョ監督が5月17日で退任し、後任には井原正巳ヘッドコーチが指名される。厳格な前監督に対し、自由を許容する幅を持たせた新監督の元、チームのスタイルは確実に変化し、とりわけゴール数は格段に増加している。だが、白星が付いてこないという苦境は、ほとんど変わっていないのが現実だ。果たしてここから先の航路図を、井原レイソルはどう描いていくのか。鈴木潤の提言に耳を傾けよう。

ネルシーニョとの別離。そして、井原正巳新監督就任へ

 5月17日、ネルシーニョ監督の退任と、井原正巳ヘッドコーチの新監督就任が発表された。

 監督交替の顛末は、以下のとおりである。

 3月の4連敗中には、強化部とネルシーニョ監督は協議を重ねてきた。指揮官の「このままでは終われない。復活させる」という強い意志もあり、4月以降も続投となった。

 第7節の鹿島アントラーズ戦、第11節の湘南ベルマーレ戦では勝利を収め、状態は上向きにあると思われたものの、第13節では残留争いの直接対決であるホームの横浜FC戦を0−1と落としたことで、クラブ側とネルシーニョ監督が再び協議を行った。そこで「ここでお互いに終わりにしよう」と双方合意のもと、退任が決まった。

 井原監督新体制の初戦は第14節のヴィッセル神戸戦。この1試合は1−1の引き分けに終わった。ただ、電撃的な監督交替からほとんど準備期間がなく、就任からわずか3日という限られた時間の中で、柏はそれまでの試合とは明らかに異なる姿を見せた。90分を通じて、首位の神戸に打たれたシュートは前半の3本だけに抑え、試合の大半でペースを握った。数多くあった決定機を仕留めてさえいれば…と悔やまれる結果ではあったが、選手が見せたパフォーマンスに関しては十分に期待を抱ける内容だった。

 この試合で井原監督が選手に意識づけしたのは、チャレンジする姿勢である。

 井原監督は、5月18日の監督就任時の取材で「選手がネルシーニョ監督に気を遣いながら、少しプレーが縮こまっている部分があった」と話していた。

5月17日付けで、柏レイソルの新監督に就任した井原正巳(Photo : Takahiro Fujii)

 ネルシーニョ前監督は非常に厳しい人だ。稚拙なミスや、失点に直結するイージーなミスをしようものなら、そのプレーを厳しく叱責される。いつしか選手たちは、監督の目を気にしてリスクを冒さなくなり、チャレンジする意識が希薄になっていった。……

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Profile

鈴木 潤

2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。

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