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ギュンドアンとフェルナンジーニョ――ペップの頼もしきセンターハーフ

2021.05.15

重版記念『ペップ・シティ』本文特別公開#2

2020-21シーズン、CLでクラブ史上初となる決勝進出を決め、さらにはプレミアリーグのタイトル奪還も果たしたペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ。書籍『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』 の重版決定記念として、 本書の中から一部エピソードを特別に公開する。2人の敏腕ジャーナリストがグアルディオラへの密着取材で迫った、名将の知られざる一面や仕事術に触れてほしい。

 2016年4月、ドイツにいるペップ・グアルディオラにとっては、バイエルン・ミュンヘンでの3年目にして最終年となるシーズンが大詰めを迎えようとしていた。イングランドでは、グアルディオラの就任に備えるマンチェスター・シティ経営陣が、夏の移籍市場に向けて補強戦略を練っていた。同じ頃、オランダのアムステルダムには、人目を避けるようにして、こっそりとホテルの厨房スタッフ通用口から中に入る怪しげな男が1人。チキ・ベギリスタインだった。

 シティのフットボール・ディレクターは、ボルシア・ドルトムントに所属していたミッドフィールダー、イルカイ・ギュンドアンの関係者とミーティングを持つことになっていた。しかし、メディアが密会の匂いを嗅ぎつけていたことから、移籍スクープの獲物を狙う報道陣の目を避けるべく、逃亡者まがいのホテル入りとなった。お抱え運転手のロブが、パパラッチをまくために、何時間も市内をぐるぐるとドライブしてから会合の場に向かう念の入れ具合だった。

 幸い、話し合い自体は順調に進み、移籍契約の合意を見た。アムステルダムのホテルの一室で、グアルディオラ体制下の新戦力第1号獲得が決まったのだ。ギュンドアンは、後にこう振り返っている。

 「ペップと直接話をするまでもなかった。彼が自分をチームに欲しがってくれているというだけで、決心するには十分だったんだ」

 ギュンドアン獲得は、ドイツ時代に監督自身が抱いた好感(及び苦痛)に端を発している。ユルゲン・クロップが率いていたドルトムントと繰り広げた数々の名勝負の中で、相手ミッドフィールダーが披露した秀逸のパス能力が、バイエルン指揮官の目を引いたのだ。グアルディオラは言っている。

 「ドイツでは、対戦する度に彼のプレーに惚れ惚れさせられた。毎回、嫌というほど彼に悩まされもしたわけだけど」

 舞台裏でのグアルディオラは、ギュンドアンの持つ能力への高い評価を隠そうとはしなかった。対戦後には、よく自ら歩み寄って声をかけてもいた。だが、自身がミュンヘンからマンチェスターへと活動の舞台を移そうとする頃には、同じくプレミアリーグへと対決の舞台が移るライバル関係の話題として、トルコ人の血を引くドイツ代表ミッドフィールダーの名前が真っ先に上がるようになる。グアルディオラ対クロップ、そして、シティ対リバプールというライバル関係だ。

 前年からリバプールで指揮を執っていたクロップは、ドルトムント時代の愛弟子とアンフィールドでの再会を望んでおり、本人とも話をしていた。ギュンドアンのキャリアに多大な影響を与えている指揮官は、ドイツを離れた後も近い関係を保っていたのだ。しかし、ベギリスタインには強力な切り札があった。

 「ペップがシティの監督になると知って全てが変わった」と、ギュンドアンも認めている。

 シティでの入団会見は、新監督のお披露目と同じ日に行われた。但し、新ミッドフィールダーの手には松葉杖。ドルトムントでの練習中に膝蓋骨(ヒザの皿)脱臼の重傷を負ったギュンドアンは、前シーズン終了後のEURO2016出場を断念しなければならず、移籍先でのデビューも、新シーズン開幕後の同年9月14日、チャンピオンズリーグでのボルシア・メンヘングラートバッハ戦まで待たなければならなかった。……

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