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今季プレミア“陰の主役”。クリス・バシャムが愛称や恩師との関係を告白

2020.08.10

 リバプールの30年ぶりのリーグ制覇で幕を閉じた2019-20シーズンのプレミアリーグだが、陰の主役を選ぶのなら、それは間違いなくシェフィールド・ユナイテッドだろう。

 3年前まで3部リーグにいたシェフィールドUは、昇格を繰り返して今季は13シーズンぶりにプレミアリーグに挑戦した。もちろん開幕前は降格候補の筆頭だったが、終わってみれば堂々の9位。欧州カップ戦の出場権獲得まであと一歩という好成績だった。

 そんなチームでクラブ年間最優秀選手に選ばれたのがDFクリス・バシャムだ。リーグ戦で全試合にスタメン出場し、リーグで4番目に少ない39失点という堅守に貢献した。そんな同選手のインタビューをスポーツ情報サイト『The Athletic』が掲載していたので紹介したい。

オーバーラッピングCBの代名詞

 まず、バシャムといえば“オーバーラッピングCB”として有名だ。あの皇帝フランツ・ベッケンバウアーになぞられ「バッシャムバウアー」の愛称でファンから親しまれている。

 そのニックネームについてバシャムは「初めて耳にしたのは昨季の中盤くらいさ」と振り返る。「ファンが付けてくれたんだ。僕自身はベッケンバウアーのプレーを見たことがないけど、父の憧れの選手の1人だったそうだ。今ではクラブのみんなも僕のことを『バッシュ』と呼ばなくなった。みんな『おはよう、バッシャムバウアー』と言うんだ。言われるたびに笑みがこぼれるよ」

 皇帝の愛称だけではない。守備的MFが元フランス代表のクロード・マケレレにちなんで「マケレレ・ロール」と呼ばれていたように、今では攻め上がるCBのことを「クリス・バシャム・ロール」と呼ぶことがある。バシャム本人も「まさか自分の名前が付くなんてね。数年前には想像もできなかった」と喜ぶ。

 オーバーラッピングCBの起源についても明かしている。2016年に監督に就任したクリス・ワイルダーが、同年9月のジリンガム戦のハーフタイムにテコ入れしたそうだ。

 「守備に専念せずに攻撃参加するように指示を受けた。3部リーグだったので、最終ラインに1、2名だけ残して、もっとリスクを冒せると考えたのさ。あの試合以降、チームは完全に3-5-2に固定されたんだ」

「彼はダイヤモンドのような男」

 元々はMFだったバシャムだが、そうやってオーバーラッピングCBにコンバートされた。そんな恩師ワイルダー監督との関係性は相思相愛だ。今年1月にワイルダー監督はバシャムについて「いつかフットボール界を離れて監督キャリアを振り返った時、彼は指導した中で最高の1人として思い出されるだろうね。ダイヤモンドのような男だ」と絶賛した。

 バシャムも指揮官を慕っているが、初めて指導を受けた時は衝撃的だったという。

 「信じられないほどのインテンシティだった」とバシャム。「倒れる選手もいたが、監督は『立たせろ』と檄を飛ばした。監督はずっと叫んでいたしね。『練習でこれなら、試合はどうなるんだ?』とチームメイトが心配したほどさ。でも、試合になると監督は落ち着いていた。監督は初日から言っていたのさ。『充実した練習を1週間やれば、週末には良い結果を残せる』とね。その通りだよ」

 ワイルダー監督はプレシーズンも厳しいことで有名だ。だが、そのおかげでシェフィールドUはケガ人が少ないことで知られる。プレシーズンには「恐怖の火曜日」という特別な練習日がある。フィジカルをメインにした厳しい3部練習の後、気が遠くなるような過酷なランニングが待っている。この練習メニューについてはアシスタントコーチも「科学的な根拠はない」と認めるほどだ。

 そんな地獄のメニューで、バシャムは毎年のように1位の成績を残すという。だから指揮官から「ダイヤモンド」と称えられるのかもしれない。しかし、そんなバシャムでも「恐怖の火曜日」を想像するだけで「今から汗をかいてしまう」そうだ。

 シェフィールドUは、科学的な根拠を超越したメニューをこなすことで、下馬評を覆す成績を残せるのだろう。来季はどんなサプライズを起こしてくれるのか。今からワイルダー監督のチームに注目したい。


Photo: Getty Images

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クリス・バシャムクリス・ワイルダーシェフィールド・ユナイテッド

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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