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“オランダリーグ”に見るスタジアム生観戦の付加価値

2020.07.27

 野球のオランダリーグが7月23日に開幕した。昨季まで無料で観戦することができた同リーグだが、今季はコロナ対策のため入場者数を抑える必要があり、有料試合が増えている。例えばアムステルダム・パイレーツの場合、木曜日の試合は無料、土曜日・日曜日の試合は250人限定の有料試合となっている。

250人でも賑わいは作れる

 アムステルダム・パイレーツはライバルチームであるキュラソー・ネプチューンズ(ロッテルダム)を招き、7月25、26日とホーム開幕シリーズを戦ったが、両試合とも前売りの段階で250枚のチケットが完売した。

 観客席はバックネット裏にしっかりしたものがあるが、それ以外は3塁側ベンチ横に仮設スタンドがあるだけ。小ぶりなスタジアムなため、たった250人でもかなり賑わった。

 私がこれまで見てきたアムステルダム・パイレーツ対キュラソー・ネプチューンズと比べても、1.5倍ほどの観客がいた。「やっと好きな野球が見られる」。そんな開放感に球場は包まれていた。

 限定250人という数字はあくまでコロナ対策によるものだが、マーケティングの視点から見ても絶妙だったのではないだろうか。

 試合を見に行くかどうか興味のある人にとって、「どうせ1枚5ユーロだし、万が一売り切れてしまうのも嫌だから、とりあえずチケットを買っておくか」という気持ちにさせる枚数だった。

 今回は、チケットを発売することによって試合観戦に付加価値が生まれ、日頃の無料試合より多くの観衆を集めることにつながるケースになった。

プレミアム感を演出するAZの本拠地

 オランダのサッカークラブは、意図して小さなスタジアムを作って(シーズン)チケットの販売枚数を限定することがある。AZがその一例だ。彼らは長く8900人収容のアルクマール・ハウダーというスタジアムを使っていたが、スタジアムが手狭になったことと老朽化が重なり、2006年にディルク・ハイティンハ・スタディオン(現AFASスタディオン)を開場した。

 その収容人員は1万7000人。旧スタジアムのキャパシティの2倍にあたる数字だが、AZの人気からすると、もっと大きなスタジアムを作ってもよかった。しかし、AZは“チケットが足りない状況”を意図的に作り、“AZのホームゲームを生観戦するのは特別なこと”という意識を観衆に抱かせた。

 AZのスタジアムは1万7000人→3万人→4万人と段階的に拡張できるよう設計されているが、今もなおスタジアムは開場当時のキャパシティのままだ。

 というのも2009年、メインスポンサーであるDSB銀行が潰れ、AZが破産の危機に陥ったことから一気にユース育成路線に舵を切り、借金返済後も投資をトレーニング施設に集中させたからだ。

 近年、AZの平均観客動員数は1万5000人前後と決して悪くないが、ピーク時に比べると若干、落ちている。

 昨季、アヤックスと激しく優勝争いを演じ、そのサッカーの質の高さからも注目を浴びたAZに再び観客が戻ってくるのか。その先に彼らがスタジアム拡張策を取るのか、注目していきたい。


Photo: Getty Images

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AZ文化

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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