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独代表スポーツ心理士が語る、コロナ禍がメンタルにもたらす影響

2020.04.29

 国際プロサッカー選手会(FIFPro)の統計によれば、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響でシーズンが中断になった数週間のうちに、女子選手の22%、男子選手の13%がうつ病傾向の症状を示しているという。

 この状態がいつまで続くのか、一般の人々と同様に、スポーツ選手たちも将来に向けての不安や現状へのやるせなさなど、心理的な負荷がかかっていることを示す結果だ。こういった時、何が必要になるのだろうか。

 4月26日のドイツ週刊新聞『ツァイト』は、スポーツ心理士としてドイツ代表に帯同しているハンス・ディーター・ヘルマン氏から話を聞いている。同氏は「今回の危機は心理的な痕跡を残すことになるだろう」と語っている。

監督やマネージャーからの問い合わせが増加

 ヘルマン氏によれば、選手からの問い合わせよりも、クラブの監督やマネージャーからの問い合わせが増えているという。

 「選手たちを助けるために、どのように働きかければいいのか。また、これから始まる無観客試合に向けて、どのような準備を進めるべきなのか、といった内容だ。アイディアの話し合いやクリエイティブな解決法への需要がこの数週間のうちに増えている」

 また、ヘルマン氏の視点では、こういった危機的な状況にある時は、チームとしてのパフォーマンスより、選手個々と連絡を取り合う時間が重要になるという。

 「選手とコミュニケーションを取り、彼らの話に耳を傾け、質問し、定期的に連絡を取り合うことが緊急の仕事となる。トレーニング時でも、電話でもビデオ通話でも構わない」

 また、現在は監督たちの仕事の量にも大きな差が出ているという。積極的に動いている監督たちは「今は普段のシーズン中よりも時間がない」と話しているそうだ。ヘルマン氏はその理由をこう説明する。

 「選手一人ひとりに時間を割いているからだ。このように、状況が不確定な時は監督と選手間の関係性に時間を費やすのがマネージャーとして最善の行動となる。将来が不明瞭な時期に選手たちの心理的な状態を安定させることは、後に大きな効果をもたらすことになる」

自身の価値を感じられるように

 では、選手自身はどういった行動を取るべきなのだろうか。現在のスポーツ界の状況は、バーチャル空間でのリモートワークが盛んな国際企業や俊敏なスタートアップから学ぶ格好の機会だという。

 また、スポーツ界が一般の人々に対して好例を示すとすれば、次の3点だ。1つは、1日の時間割をしっかり作ること。2つ目は、継続的に体を動かすこと。そして3つ目が何よりも重要になるが、職業以外に自分の主観的に見て何か有意義なことをすることだ。

 この3つ目は、例えばバイエルンのジョシュア・キミッヒやレオン・ゴレツカが主導で動き、サッカー界のみならずドイツ国内の各スポーツ界のトッププロがNGOへの資金援助に参加している「#WeKickCorona」のような活動を指す。

 他にもケルンが貧困層に食料品を配る『Tafel』という組織にボランティアとして参加したり、ボルフスブルクの選手たちがスーパーで商品棚の整理を手伝ったりなど、多くの慈善活動が報じられている。

 長期の中断により、社会との接点が減ることでトレーニングも満足にできず、試合もできずに自身の存在価値に疑問を持ち始めるようになる選手も出てくる中、こういった慈善活動は自分自身を助けることにも繋がるという。

 「こういった不安定な時期は、助けを受ける側だけでなく、助ける側にとっても好ましい効果がある。自分自身の価値をより強く感じられるようになるのだ」

 もちろん、過剰な負荷が感じられるなら、専門家に早い段階で連絡を取ることも重要だ。「私たち心理士は、これを『セルフケア』と呼ぶ」

特殊な環境に適応したチームが有利に

 スポーツ心理士のヘルマン氏からすると、いわゆるフィットネスや試合への心理的なスイッチ、そして実践感覚といったものの他にも気になるポイントがあるようだ。

 それは「無観客で監督や選手のすべての声が聞こえ、外からの聴覚や視覚のズレが生じない、純粋にテレビ放送のための試合という特殊な状況にどれだけ適応できるか」という点だ。

 「五感に与えられる刺激すべてに変化がある。普段のリーグ戦で慣れ親しんでいるノイズがなくなる。監督たちも、ピッチサイドでのコーチングの際にとても変な感じを覚えるだろう」

 同氏は、そういった小さなディティールがシーズンを左右すると見ているようだ。

 「こういった点に最善の準備ができれば、再開後の初戦で大きな優位性を得るだろう。そして、それが決定的な意味を持つことになる」


Photo: Getty Images

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Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。