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昌子源がガンバ大阪に完全移籍。フランス生活は苦難の連続だったか

2020.02.07

 リーグ・アンのトゥールーズに所属していた昌子源がJリーグに復帰し、ガンバ大阪に完全移籍することが発表された。

 先週あたりから噂は出ていたものの、いざ決定したときは何とも言えず寂しい気持ちになった。「もう少しここ(フランス)で見てみたかった……」という思いだ。

度重なるケガでモチベーション低下

 2018年12月にトゥールーズに移籍した昌子は、デビュー戦となった2018-19シーズン第21節のニーム戦以降、カップ戦を含む全試合に先発フル出場した。

 昌子の獲得を決めたアラン・カサノバ監督の中には、19-20シーズンは昌子にDFラインの中核を担わせたいという狙いがあったため、昌子自身もできる限り場数を踏み、リーグ・アンのフィジカルコンタクトやデュエルを体に染み込ませようとしていた。

 Jリーグで2018シーズンをフルに戦い、12月のクラブW杯にも出場して、ほぼ休みなしでフランス入りした昌子にとって、さぞかし心身ともにタフな半年だっただろうと思う。

 「よくケガをしなかったものだ」と本人も感心していたが、19-20シーズンの開幕を目前にしたプレシーズンマッチでとうとう左太腿の筋を痛めてしまった。

 9月25日の第7節アンジェ戦で復帰し、さあここからがシーズンのスタートだ、と期待していたが、この試合でジャンプの着地の際に足首をひねるケガを負ってしまう。

 11月には全体練習に加わり、ついに復帰間近と思われたが、まだ痛みが完全に消えていないということで大事を取り、そうこうしているうちに年末休暇に突入。さすがに年明けはチームシートに名前が載るかと思っていたら、復帰しないまま移籍という顛末になってしまった。

 その間、トゥールーズは二度にわたって監督が交代し、19位アミアンに7ポイント差の最下位(第23節終了時点)と、残留の望みが極めて薄い位置に落ち込んでいる。

退団の要因はメンタル面か

 外国籍選手の場合、自分を望んでくれた監督がクラブを去ると、「次の監督には使ってもらえるのか?」とプレッシャーを感じるものだ。

 2018年10月に着任したアントワン・コンブアレ監督は、発言を聞く限りでは、コンディションが回復すれば昌子を使うつもりだったと思う。しかし着任後の初陣で強豪リールを破る好スタートを切った後、リーグ戦で全戦全敗。1月4日のフランス杯で4部リーグのチームに敗れた翌日に解任された。

 後任には育成部門にいたデニス・ザンコ氏が任命されたが、トゥールーズの専門メディア『LesViolets』のジャメス記者は「昌子を実際に試合で使ったことのないザンコには、『昌子に残ってもらいたい』とか『引き止めたい』という思いはなかった。そもそもどれだけ戦力になるかわからない状態だったから、何も言いようがない、というところだろう」と話す。

 現地メディアは「昌子を退団に向かわせたのはメンタル的な理由ではないか」と報じている。「度重なるケガという不運に加えて監督交代、クラブの成績不振、文化や習慣の違う慣れない土地など、昌子が辛い思いをした要因は数多くある」というのだ。

 トゥールーズはパリ、マルセイユ、リヨンに次いでフランスで4番目に人口の多い都市で、近郊には観光地も多く、ツーリストにも人気だ。

 しかし、観光で訪れるのと住むのとではやはり大違いで、機能的で便利、サービスが充実した日本と比べて大変なことが多いのがフランスという国だ。

 「配達は明日の午前中です」と言われ、仕事を休んで1日待っていたのに荷物が来ない、なんていうことは日常茶飯事。小包の盗難も多く、わざわざ行ったのにあるはずのものがない、とか、開店時間を確認してから行ったのになぜか閉まっている、といった事例も「フランスあるある」だ。

 個人商店ならいざ知らず、郵便局のような公的な場所ですら勝手に閉まっていたことがあり、翌日、職員の女性に「昨日、閉まっていたけど?」と聞いたら、「疲れていたから」と平然と返された時はさすがに脱力した。つい最近も、交通機関がマヒするゼネストが1カ月以上も続いた。

フランス生活はストレスがたまる

 とにかくストレスの種は日常的に転がっていて、しばらく生活していると「仕方ない」と諦められるようになるのだが、一刻も早く結果を出さなくてはいけないプレッシャーにさらされ、体調管理に人一倍気を使うなど日常生活での制限も多いサッカー選手にとって、生活面でのイライラは何倍もこたえると思う。

 チームが降格の危機にさらされていたこともあり、常勝クラブの鹿島アントラーズから来た昌子は昨シーズンの終盤、しきりに「しんどい……」と漏らしていた。たとえば第36節アミアン戦後、彼はこう語っていた。

 「慣れてない分しんどい。優勝争いのほうがなんぼか楽しい。次、勝てばいいと思えるし、今まで勝ってきたから俺らはこの順位にいるんだ、という根拠もある。でも、残留争いって『次も勝てばいい』とは思えないんですよね。勝ってないからこの順位にいるわけだから」

 そんな思いを抱えていた昌子をよそに、チームメイトたちはいたって気楽だった。前年もプレーオフを制して生き延びていたからその状況に慣れていたのかもしれないが、昌子はそんな仲間の態度にも歯がゆさを感じ、言葉の壁があるなりに「伝えられることは伝えていく」、と意気込んでいた。

 『LesViolets』のサイトで実施中のサポーターアンケートでは、原稿執筆時点で2522人の回答のうち64.6%が、「昌子をキープすべきだった」と答えている。彼らも、昨シーズン後半戦の昌子のプレーを見て、今シーズンの活躍に期待していた。昌子に勝者のメンタリティを注入してもらいたい思いもあっただろう。馴染んできていた紫色のユニフォーム姿がもう見られないのも残念だ。

 闘魂あふれる昌子は、モチベーションを高く保てるところで、そしてそのモチベーションを余計なことに邪魔されない環境で、プレーしたかったのだろうか。本心は本人の口から語られることになるだろうが、ガンバ大阪でのこれからの活躍を心から祈りたい。


Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

1992年より欧州在住。96年から英国でサッカー取材を始め、F1、自転車、バスケなど他競技にも手を染める。99年以来パリに住まうが実は南米贔屓で、リーグ1のラテンアメリカ化を密かに歓迎しつつ、ブラジル音楽とカポエイラのレッスンにまい進中。