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人生は、どう転ぶかわからない。ルーカスのCL決勝出場に物思う

2019.06.03

パリのファンには懐かしい姿が、CL決勝に

 トッテナム対リバプールのチャンピオンズリーグ決勝戦を見ていたら、なんとも言えない思いがこみあげてきた。

 欧州、とりわけビッグクラブでプレーする選手たちなら誰もが夢見るチャンピオンズリーグ決勝の舞台。そこに、懐かしい顔があったからだ。

 昨シーズンの途中までパリ・サンジェルマンにいた、ルーカス・モウラ。

 ルーカスは、2012-13シーズンの冬にPSGにやってきた。2011年にカタールがPSGの実権を握り、レオナルドをテクニカルダイレクターに据えたときから、当時ブラジルのサンパウロでプレーするこのティーンエイジャーは「何十年に1人の天才児」と言われNo.1ターゲットになっていて、「いったいどんな逸材が来るんだ?」と、いまか、いまかとみなが彼の入団を心待ちにしていた。

 13年1月に移籍が成立したときの金額は、推定4000万ユーロ。ブラジルでプレーする選手の移籍金では当時最高額だった。ルーカスのPSG入団は、文字どおりの“鳴り物入り”だったのだ。

 ところが、期待が大きかった分、それを満たすのは大変だった。

 初年度は、「途中入団だし仕方がない」、「慣れるのに時間がかかるだろう」。しかし翌シーズンも、その次の年も、サポーターやメディアの期待を満たすパフォーマンスは見られなかった。入団する前の評判があまりにすごすぎて、「それほどでも……」な感じがしてしまったというのもあった。

2013〜18年までプレーしたパリSGでは、ブレークならず

 しかし時折、ルーカスは「天才児」の噂どおりのパフォーマンスを見せた。

 たしかパルク・デ・プランスでのマルセイユ戦だったと思うが、ピッチ中央を豪快にソロドリブルで攻め上がったプレーなどは、1人だけピッチ上に異次元の選手がいるような、まるでアニメの世界みたいで、最終的にゴールは決まらなかったにもかかわらず大観衆は沸きに沸いた。

 誰もがルーカスが素質のある選手だということは十分わかっていた。けれどそれは継続的ではなかったから、「はまると恐ろしいほどすごいプレーをするけれど、そうでないときは危なっかしい感じ」という印象の枠を出なかった。

パリのムードメーカーだったルーカス

 それでも、陽気で気の良い彼は、ロッカールームでは人気者だった。

 ネイマールとは古くからの親友で、ルーカスの存在は、17-18シーズン、パリに来ることになったネイマールにとっても大きなよりどころだった。

 テレビのロケ番組でパルクのロッカールームが映されたとき、ルーカスのロッカーは、真ん中の特等席にあった。その時の彼はもっぱらベンチ要員だったが、ムードメイカーとしてはチームの中で重要な存在とされていたのだ。

 しかしそのシーズン、怪我で出遅れると、ルーカスはウナイ・エメリ監督の構想から徐々に外れていった。ネイマールだけでなく、キリアン・ムバッペというとんでもない新人も登場すると、メンバー表の中にルーカスの居場所はなくなり、人々の話題にもほとんどのぼらなくなった。

 冬のメルカートでルーカスは移籍を決意。トッテナム・ホットスパーへの入団が決まった。

 ネイマールやマルキーニョスら、ブラジル人軍団は嘆いた。せっかく親友ネイマールと一緒にプレーできると喜んでいたルーカス本人にとっても、後ろ髪を引かれての退団だった……。

巡り巡って、CLの舞台で躍動

 その彼が、6月1日、チャンピオンズリーグ決勝戦の舞台に立っていた。

 先発ではなかったが、66分、ハリー・ウィンクスに変わってピッチに上がると、惜しいシュートも放った。

 そもそもルーカスは、スパーズがこの場に立てた、最大の功労者といってもいい。グループリーグ最終節、カンプノウでの対バルセロナ戦、1-0でリードされていたあの試合で、71分からピッチに立ったルーカスの、終盤85分の同点打がなければ、決勝トーナメント進出はインテルのものになっていた。

 もっとすごいのは準決勝戦だ。

 第1レグはアヤックスが0-1と、アウェーゴールを奪って勝利していた。アムステルダムでの第2レグも前半戦で2-0のリード。スパーズが勝ち抜けるには、後半戦だけで3点を奪う必要があった。

 しかしルーカスが、見事それをやってのけた。

 電光石火のスピードで抜け出して決めた1点目は、前述の、マルセイユ戦での閃きシーンの再現のようだった。そして、あと数秒で試合終了、という瞬間の、あの劇的な3点目。

CL準決勝アヤックス戦で、ハットトリックを決めてチームを決勝に導いた

 この試合でのルーカスは、まさしく「はまると恐ろしいほどすごい」選手だった。

 スパーズはこの会心の1点により、クラブ史上初のチャンピオンズリーグ決勝進出を決めた。そんな歴史的な出来事に貢献できたことは、ルーカスのキャリアにとってもナンバーワン級の体験だったのではないかと思う。

 PSGを追われたルーカスが、新天地でこんな素晴らしい活躍をした。一方で彼を放出したPSGはその後もラウンド16止まりだ。あのままPSGに残れていたとしたら、ルーカスはこの経験は味わえていなかった。

 鳴り物入りでの入団から一転、構想外になって放出、という辛い思いはしたけれど、人生は、どう転ぶかわからない。

 ビッグイヤーに手が届かなかったのは残念だったが、スパーズファンが、今シーズンのルーカスの活躍を忘れることはないだろう。

Photos: Getty Images

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パリSGルーカス・モウラ

Profile

小川 由紀子

1992年より欧州在住。96年から英国でサッカー取材を始め、F1、自転車、バスケなど他競技にも手を染める。99年以来パリに住まうが実は南米贔屓で、リーグ1のラテンアメリカ化を密かに歓迎しつつ、ブラジル音楽とカポエイラのレッスンにまい進中。