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プレミアリーグ最速のチドジー・オグベネ。時速36.93kmの秘訣は「90%の力で走ること」

2023.12.18

 今季プレミアリーグで最速スプリントを記録したプレーヤーには、走り方のテクニックがあるそうだ。

 先月、プレミアリーグ公式HPが発表した最速ランキングで、並み居るスピードスターを抑えて今季プレミアリーグにおける最速スプリントを記録したのは、ルートンのFWチドジー・オグベネ(26歳)だった。アイルランド代表アタッカーは、9月のフラム戦で「時速36.93㎞」というスプリントを披露。これがウォルバーハンプトンのFWペドロ・ネトやリバプールのMFドミニク・ソボスライを抑えて今季プレミアの最速スピードになったという。

生来の身体能力と研究熱心さで進化

 彼のスピードのルーツは恵まれた身体能力にある。ナイジェリア人両親の元、ナイジェリアのラゴスで生まれたオグベネは、8歳の頃に家族でアイルランドに移住。アイルランドではサッカーだけでなく、身体能力がモノを言うゲーリックフットボール(ラグビーに似たアイルランドの国技)でも才能を発揮した。だが「僕はゲーリックフットボールに必要な能力を持ち合わせていたけど、夢のために決断した」と、サッカーに専念するようになった。

 そして2018年にアイルランドのクラブからイングランドにやってきたオグベネは、昨季イングランド2部のロザラムで結果を残して今オフにプレミアリーグ初昇格のルートンに加入。イングランドトップリーグ初挑戦ながら、今季ここまで16試合に出場し、10月のノッティンガム・フォレスト戦ではプレミア初ゴールもマークした。

 兄弟が陸上の道に進んだオグベネの身体能力の高さは折り紙付きだ。しかし、必ずしも“素材”だけでスピードを発揮しているわけではない。「僕よりも速い子はたくさんいたよ」とオグベネは英紙『The Independent』に語っている。学校では一番速かったかもしれないが、アイルランドのコーク県では一番になれなかったという。だからオグベネは考えたそうだ。「最速の人はどんなことをしているのか?」

 そして、徐々にスプリントの“謎”に興味を持ち始めて「スプリントの仕組み」を学ぶようになったという。陸上を見ることが好きになり、ジャマイカがウサイン・ボルトを擁して世界記録で金メダルを獲った2012年ロンドン五輪の400mリレー決勝を何度も見返したという。日本が4位で惜しくもメダルを逃したレースだ。

「脳が全力を求め過ぎないから、そのほうが速い」

 今でもたまに映像を見返すことがあるという。「ボルトが大好きだった。彼の走り方や力学がね。僕は彼のように身長が195cmもないので、ああやって体を伸すことはできない。でも彼の走り方が好きなんだ。まるでピストンのようだからね」

 オグベネが気をつけているのは全力で走らないこと。「スプリンターは、100%ではなく90~95%の力で走るように指導を受けるんだ。100%だと体にストレスをかけ過ぎる。“90%ルール”と呼ばれていることなんだ。90%の力なら『脳に90%しか求めていないよ。リラックスしているよ』と伝えることがきる。脳が全力を求め過ぎないので、結局はそっちの方が速いのさ」

 オグベネの「時速36.93㎞」というのは単純計算すると、100mを「9.75秒」で走ることになるが、あくまで最高速度のため、実際には9秒台のタイムは出ない。ボルトの100m走での最高速度は「時速45km」に迫るそうだ。それでも芝生の上でボールを追いかけ、相手選手もいる中でこれだけのスピードを出すのだから、オグベネの走るテクニックは一見の価値がある。

 昨シーズンのプレミア最速スピードは、マンチェスター・シティのDFカイル・ウォーカーが記録した「時速37.31km」だ。まずは、この記録更新を目指すことになる。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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