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三笘薫が加入。43年ぶりの昇格で躍進するユニオン・サン・ジロワーズ

2021.08.19

 2020-21シーズン、川崎フロンターレからブライトンへ完全移籍した三笘薫が、ベルギーリーグのユニオン・サン・ジロワーズ(USG)でプレーする。Jリーグ屈指のドリブラーを迎え入れたこのクラブについて触れておきたい。

戦前に11回の優勝を誇る古豪

 USGはベルギーの首都ブリュッセルの中央部サン・ジルをホームとしている。ホームスタジアムはデュダン公園内にあるスタッド・ジョセフ・マリアンだ。

 クラブは1897年に設立され、戦前にはリーグ優勝11回を誇るなど、ベルギーを代表するクラブとして君臨してきた。

 中でも1933年から1935年までは、ベルギーリーグ最高の60試合無敗記録を達成しており、その当時の偉業は「ユニオン60」と呼ばれている。

 しかし、第二次世界大戦後は同じブリュッセルのライバルであるアンデルレヒトの台頭もあって成績が低迷。1955-56シーズンの3位が最高順位で優勝争いにはほとんど絡むことができず、1973年に2部に降格してからは一度もトップリーグに復帰できず、2部〜4部の間でさまよい続けた。

2018年ブライトン傘下に

 近年まで3部に所属していたUSGだが、2015年に2部に復帰。8チーム体制に再編された2部に参入すると、2018年にイングランドのポーカープレイヤーで、ブライトンのオーナーを務めるトニー・ブルーム氏がクラブを買収。事実上のブライトン傘下のクラブとなった。

ブライトンのオーナーでもあるトニー・ブルーム氏がクラブを買収。事実上ブライトン傘下になった

 長年財政難に苦しんできたUSGだが、買収をきっかけにクラブ経営が安定すると、南アフリカ代表FWパーシー・タウらをブライトンから借り入れ、毎年、上位争いを演じるほどに安定した成績を収められるようになった。

 上位争いの常連になったUSGは、2020-21シーズンに22勝4分2敗の成績を収め、2位のスランに勝ち点18差をつける圧倒的な強さで2部優勝を果たし、48年ぶりの1部復帰を果たした。

 48年ぶりの復帰だけでなく、クラブは上位進出へ野心を燃やしている。現在は8000人収容のスタッド・ジョセフ・マリアンを使用しているが、5000万ユーロを投じて新スタジアムの建設を検討している。ライバルのアンデルレヒトからブリュッセルでの覇権を取り戻さんばかりの勢いがあり、現在ベルギーでも特に成長著しいクラブの1つである。

2トップを中心に攻撃力を発揮

 チームは現在55歳のフェリーチェ・マッズ監督が率いる。イタリア移民二世のマッズは、選手時代は地元シャルルロワのユースでプレーしていたが、トップチームに昇格できず、体育教師として働きながらアマチュア選手としてプレーした。

 現役引退後もアマチュアリーグの監督を務めていたが、2010年に当時3部のホワイトスター・ウォルウェをベルギーカップ準々決勝に導き、クラブも2部復帰させた実績を評価され、2013年にユース時代を過ごしたシャルルロワへ監督として復帰を果たしている。

 シャルルロワでは、当時下位低迷していたシャルルロワを上位の常連として変貌させ、2017年には年間最優秀監督賞を受賞している。2019年にシャルルロワを去り、ヘンクの監督に就任するも約4カ月で解任。2019-20シーズン終了後、トーマス・クリスタンセン(現パナマ代表監督)に代わってUSGの新監督として迎え入れられた。

 昨シーズン開幕当初は[4-3-3]を採用していたが、第6節にブリュッセルのライバルクラブのRWDMブリュッセルFC戦に敗れた後、システムを[3-5-2]に変更。このシステム変更が功を奏し、USGは第6節から6連勝を達成して独走態勢に入った。

 原動力になったのは、2トップを組む元U-21ベルギー代表FWダンテ・ファンゼイルと、ドイツ人FWデニズ・ウンダフだ。フィジカルが強いウンダフとスピードに長けるファンゼイルのコンビで38得点を叩き出した。

 そのコンビを、チームキャプテンのマルタ代表MFテディ・テウマ、デンマーク人MFキャスパー・ニールセンが支える。プレースキッカーも務めるテウマは、昨季はチーム最多の7アシストを記録し、今季も攻守の軸として大期待される。

 統率された中盤でボールを回収するニールセンは、チーム最大の武器となるショートカウンターの起点となる。足下が優れ、正確なキックで攻撃を組み立てるルクセンブルク代表GKアントニー・モリスも貢献度が非常に高い。

三笘は左WBで起用か

 [4-3-3]を採用してきた川崎や[4-2-3-1]で戦ったU-24日本代表と異なり、USGは昨季から一貫して[3-5-2]を採用している。三笘にとってはこれまでのチームとは別のタスクを求められる可能性もある。

 起用される可能性の高いポジションは左WBだ。現在はマダガスカル代表FWロイク・ラプサンが起用されている。スピードに優れ、左サイドを積極的に突破していくラプサンは、開幕戦のアンデルレヒト戦、第3節のベールスホット戦でアシストを記録し、絶好調のシーズンを迎えている。三苫にとってはポジションを争う最大のライバルになるだろう。

 現在絶好調のUSGは、当面はシステムを変更することはないだろう。Jリーグから加入する日本人選手は、チーム事情や監督の評価により、これまでとは異なったポジションで起用されること、まったく異なる動き出しを要求されることが多い。左WBで起用されることになると、守備力の強化と運動量が求められるだろう。

 古豪復活に向けて野心を燃やすUSGを躍進に導く三笘の活躍に期待したい。


Photos: Getty Images

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アンデルレヒトブライトン三笘薫移籍

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シェフケンゴ

ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。

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