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EURO2020での躍進とともに…イングランドとデンマークでサッカーソング流行

2021.07.09

 フットボールと音楽は切っても切れない関係にある。イングランド代表は、7月7日に行われたEURO 2020準決勝でデンマークとの死闘を制し、初めてEUROのファイナルに駒を進めた。これでようやく「フットボールが母国に帰ってくる」かもしれない。

イングランドで流行りつつある替え歌

 さて、「Football’s Coming Home(フットボールが母国に帰ってくる)」とは、英国のコメディアンが母国開催のEURO 96に向けてリリースした名曲『Three Lions』のフレーズであり、以来イングランドフットボール界の合言葉となってきた一節だ。

「Football’s Coming Home」と歌われる『Three Lions』

 今回の準決勝の前日会見でも、このフレーズが話題になった。デンマーク代表GKキャスパー・シュマイケルに対し、イングランドの記者が「フットボールが母国に帰ってくるのを阻止しようとする気分は?」といった質問をしたのだ。

 イングランドで少年時代を過ごし、イングランドでプロキャリアを歩み出したレスター所属のシュマイケルは、そのフレーズの背景や真意を十分に理解しているはずなので軽く受け流すこともできたが、そうはせずに皮肉で返した。

 「フットボールが一度でもイングランドにあったことはあるのか? イングランドは何かで優勝したことがあるのか?」

 記者が「1966年」と母国開催で世界の頂点に立ったワールドカップを挙げると、シュマイケルはベスト4に残ったチームの中で唯一EUROでの優勝経験がないイングランドに対して「それはW杯だよね」と返し、「僕はデンマークのことしか頭にない。イングランドの気持ちなど考えていない」と語ったのだ。

 イングランドでは、この『Three Lions』だけでなく、3年前のW杯から歌われ始めたアトミック・キトゥンのヒット曲『Whole Again』の替え歌も流行りつつある。

 「サウスゲイト、君しかいない。今でも君に興奮する。再びフットボールが帰ってくる♪」とギャレス・サウスゲイト監督を称える歌詞で、盛り上がりに乗じてアトミック・キトゥンも替え歌バーションを正式にリリースした。

アトミック・キトゥンは替え歌バージョンを正式にリリース

 しかし「フットボールが帰ってくる」と歌うと、主人公気質のイングランドの“傲慢さ”がたびたび批判の的になる。もしかするとシュマイケルも、それで少しイラっとしたのかもしれないが、彼だってサッカーソングの“ユーモア”は十分に理解している。いや、彼だけではない。デンマーク国民全員が理解しているはずなのだ。

サッカーソングが続々ランクイン

 というのも、デンマーク代表の大躍進はデンマークの音楽業界にも影響を与えているように見えるからだ。デンマークの放送局『DR』によると、デンマーク代表が7月3日のチェコ戦に勝利してベスト4進出を決めると、音楽チャートに異変があったという。

 音楽ストリーミングサービス『Spotify』の7月4日付けの「デンマークのヒット曲リスト(Top 50- Denmark)」に、サッカーソングが5曲もトップ10にランクインしたのである。

 7位に入ったのは、今大会のデンマーク代表の公式応援ソングであり、シュマイケル自身もボーカルとして参加した『Danmarks Dynamite(デンマーク・ダイナマイト)』だ。

シュマイケルが歌い、エリクセンがエアギターを披露した『Danmarks Dynamite』

 グループステージ第2節のベルギー戦でFWユスフ・ポウルセンが先制点を決めた後にギターを弾くポーズを取ったが、あれはこの曲のミュージックビデオでクリスティアン・エリクセンが“エア・ギター”を披露していたからだ。ポウルセンは、初戦で卒倒したチームメイトにゴールを捧げたのである。

ベルギー戦でエアギターを披露し、エリクセンにゴールを捧げたポウルセン

 2位にランクインしたのは、W杯初出場となった1986年大会に向けて代表選手たちが歌った『Re-Sepp-Ten』である。日本のアイドルユニット、バニラビーンズが2010年W杯でデンマークを応援するためにカバーしたことでも知られる曲だ。

 そして堂々の1位に輝いたのは、デンマークの人気ミュージシャンであるGulddrengが発売した『Helt Sikker(間違いない)』だ。そして、この曲が人気を博しているのは、『Three Lions』と同じように“ユーモア”があるからだ(『Three Lions』よりもFat Lesの『Vindaloo』に近いかもしれない)。

 Gulddrengは同曲の中で、無表情で有名なFWカスパー・ドルベリを弄ったり、「第一子にピエール・エミール(ホイビュルク)と名付けるかも」と歌ったり、元デンマーク代表のストライカーで現在は代表チームでコーチを務める「エッベ・サンド(Sand)」とデンマーク語の「sandt(本当)」をかけたりしている。さらにミュージックビデオには、デンマーク代表の英雄ミカエル・ラウドルップも登場する。

 そしてサビでは「デンマークはEUROで優勝すると思う。W杯だって可能かも。間違いない♪」と歌っているのだ。大会前はデンマークの優勝を予想すること自体がユーモアだったが、大会が進むにつれて現実味が帯びてきて、ユーモアが期待に変わったのだ。

ユーモアに満ちた『Helt Sikker』のMVには英雄ミカエル・ラウドルップも出演

 結局、デンマークはベスト4で敗退したが、『Three Lions』のように今後も歌い継がれるようなサッカーソングが誕生したのかもしれない。


Photos: Getty Images

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キャスパー・シュマイケルギャレス・サウスゲイトクリスティアン・エリクセンユスフ・ポウルセン文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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