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FAカップのロマンスは死なない。8部のクラブがトッテナムに挑む

2020.12.03

 今、マージーサイドの4つ目のチームが注目を集めている。マージーサイドといえば、プレミアリーグ王者のリバプール、今季ハメス・ロドリゲスが加入したエバートン、そしてイングランド4部のトランメア・ローバーズの3チームが有名だ。マージーサイドのプロクラブは確かにこの3つだけなのだが、ここにきて彼ら以上にスポットライトを浴びるクラブが出てきた。

 それがマージーサイドのノンリーグのクラブ、マリンFCである。マリンはイングランド8部に所属する小さなクラブだ。そんなクラブがFAカップの2回戦を突破し、現在プレミアリーグで首位に立つトッテナムと年明けに対戦することが決まったのである。

代表主将vs体育教師

 プレミアリーグ1位と8部リーグ9位が対戦するわけだ。両チームの順位差は単純計算で「167」。これは世界最古のカップ戦と呼ばれるFAカップの長い歴史において、最も格差のある3回戦の試合になるという。

 まず、8部のクラブが3回戦まで勝ち上がることがどれだけ大変なのか説明しよう。彼らは予備予選のさらに予備選からスタートし、5試合を勝ち上がってようやく本選1回戦に辿り着く。マリンもそうやって勝ち進み、11月上旬に行われた1回戦で4部のコルチェスターをPK戦の末に制し、11月末の2回戦では延長戦の末に6部のハバント&ウォータールービルを下して3回戦に進出した。8部リーグ勢が3回戦に辿り着くのは史上2度目の快挙だという。

 3回戦からはプレミアリーグ勢も参加するため、マリンは固唾を飲んで先月30日に行われた組み合わせ抽選会を見守った。そして引き当てたのが、ホームでのトッテナム戦だった。

 これにはマリンを率いるニール・ヤング監督も「我われの小さな本拠地にプレミアリーグの首位チームを招けるなんて信じられないね」と『Sky Sports』に語った。「トッテナムにはイングランドのキャプテン、ウェールズのキャプテン、そしてジョゼ・モウリーニョがいるからね。試合が待ち遠しいよ」

 イングランド代表で腕章を巻くハリー・ケインを迎え撃つのは体育教師だ。クラブキャプテンにして2回戦の得点者でもあるニール・カミンズは、地元の学校で体育を教える先生なのだ。そんなカミンズは、スパーズとの試合に特別な思いがあると『BBC Radio Merseyside』に語る。

 「まるで夢のようだ。トッテナムとの対戦が決まった瞬間にガッツポーズをした。私は熱狂的なアーセナルファンだから、これで『トッテナムと戦える』と思ったのさ。対戦まで1カ月あるので、何とかレベル1に滑り込めたらいいね」

史上初の快挙を目指す

 「レベル1」というのは決してリーグのレベルではない。現在、英国は地域ごとに新型コロナウイルスの感染リスクが分けられており、レベルが低いほど感染リスクが低く、スポーツ観戦の規制も緩くなる。マリンの本拠地があるマージーサイドは現在「レベル2」にあるため、1月までに「レベル1」に下がることを期待しているのだ。

 彼らの本拠地は約3200人収容。レベル2でも2000人まで観客動員が許されるが、ソーシャルディスタンスなどの規制を考えると、ヤング監督もキャパの半分が現実的と考える。それさえも難しい場合は、3回戦でアウェイゲームを戦うリバプールの本拠地を借りる可能性があると一部で報じられている。

マリンの本拠地マリン・トラベル・アリーナは約3200人収容。ここにトッテナムがやってくる

 もちろんコロナ禍の影響はそれだけではない。というのもマリンは、コロナ禍によるロックダウンのため10月下旬からリーグ戦が中断されていたのだ。そのため、11月に入ってからはFAカップの2試合しか戦えておらず、政府の許可を得て練習を行ってきた。そんな状況下でも見事に勝ち上がり、リーグ戦は5試合しか消化していないのに、気づけばFAカップで7試合も戦っていた。

 いずれにせよ、マリンにとってトッテナム戦は世紀の大一番となる。2回戦の試合がTV中継されたマリンは、賞金と合わせて6万ポンド(約800万円)を受け取った。3回戦のスパーズ戦もTV中継が確実視されており、経営の苦しいノンリーグのクラブにとっては一獲千金の臨時ボーナスとなる。

 何より、この試合に勝つことができれば、126年の歴史を持つクラブにとって初の4回戦進出。そして8部リーグのクラブとしても史上初の快挙となる。

 2008年に3回戦に進出した8部のチェイスタウンは、カーディフに敗れて大会から敗退した。だからマリンは、そんな彼らの夢、いやフットボールにロマンを求めるすべての者の夢を背負ってスパーズとモウリーニョに挑むのだ。

 「FAカップのロマンスは死んだ」と叫ばれる昨今だが、来年1月の第2週だけは、誰にもそんなことは言わせない。


Photos: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。