「ロナウド最後のW杯」でも越えられなかった壁。歴代屈指のポルトガルを阻んだ“トーナメント恐怖症”
【特集】北中米W杯注目国の敗因 #4
ポルトガル代表(ラウンド16敗退)
北中米W杯では数々の注目国が志半ばで大会を去った。勝敗を分けたのは、個の力か、戦術か、それともピッチ外の要因か。彼らの敗因は「世代交代」や「決定力不足」といったステレオタイプでは片づけられない。戦術の進化、過密日程、ルール変更、選手層、育成、チームマネジメント——その背景には、日本サッカーが学ぶべき課題も潜んでいる。本特集では各国の戦いを深掘りし、彼らがなぜ敗れたのかを検証する。
第4回は、欧州屈指のタレントを擁し、UEFAネーションズリーグ王者として北中米W杯へ乗り込んだポルトガル代表。41歳の「英雄」の最後のW杯を支えながら、新たな戦い方も見出した。それでも世界一に届かなかった背景には、戦術だけでは説明できないポルトガル特有のメンタリティがあった。昨年まで上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授を務め、長年ポルトガルサッカーを追い続けた市之瀬敦が大会を振り返る。
「最後のW杯」がもたらした高揚感
2026年のW杯に9度目の出場を果たしたポルトガルは大会直近の4試合を3勝1分で乗り切り、いつにもまして好成績を残し、一方で“CR7(クリスティアーノ・ロナウド)”にとりこれが最後のW杯になるだろうと誰もが予想していた。選手たちもサポーターたちも、士気は高まっていた。サッカーの歴史に名前を残すに違いない名選手が一大決心を固めたのである。最後の花道を飾らせてやろう、そう思わないチームメイトはいないはずだ。7月20日、感動のフィナーレを迎えることを夢見るポルトガル人が多数ニューヨークに現れたとしても、誰も彼らを責めることはできない。
いつもならポルトガル代表チームに関し悲観的な予想ばかりを立てている私も、今度ばかりは願望を予想に読み代えた。なお、ロナウド本人が「最後のW杯だ」と公式に認めたのは7月5日の対スペイン戦の前日記者会見であった。
かつてはW杯前、恒例行事のようになっていた選手選考にまつわるいざこざもなく、コンディションは順調に仕上がってきており、本番開幕前、ポルトガルは優勝候補の筆頭グループに含まれてはいなかったものの、有力なダークホースになり得ると見なされていた。上述したように、私自身も、今回のW杯は大きな決断を下したロナウドを中心にチームが(珍しく)一丸となり、ポルトガルは初のW杯制覇を成し遂げるのではないかとひそかに期待していたのである。
「ロナウドをおとり」にする新たな形
ポルトガルが入ったグループKには他にコンゴ民主共和国、ウズベキスタン、コロンビアが名を連ねた。ぱっと見、ポルトガルにとり難しい組み分けではなかったはずだ。あえて要警戒の対戦相手をあげるとすれば、第3戦目に当たる南米の強豪コロンビアくらいのもの。コンゴ民主共和国とウズベキスタンからは着実に勝ち点「3」ずつを確保し、そうすれば万が一コロンビアに敗れても2位でのグループステージ突破は十分に可能だろう。心配になったのは、国名を見てポルトガルの選手たちの間に油断と慢心が広がらないかという点であった。
案の定、初戦の対コンゴ民主共和国戦でのポルトガルのプレーはあまり出来が良くなかった。ブルーノ・フェルナンデス、ビティーニャ、ジョアン・ネベス、あるいはベルナルド・シルバらのMF陣が形成する中盤の構成力は世界でもトップレベルだと思うのだが、連携がスムーズで躍動して見えたのはむしろコンゴ民主共和国代表の選手たちの方。立ち上がり早々、J.ネベスにヘディングシュートを決められたものの、前半のうちに追いついたのは立派であった。6大会連続出場という前人未到の領域に突入したロナウドがゴール前でチームメイトからのパスを虚しく待つという光景は前回カタール大会あたりからありふれたものとなってしまった。チーム全体の出来栄えも、GKジエゴ・ゴスタ、左SBヌーノ・メンデスなどほんの一握りの数の選手を除けば、サポーターの期待を上回るものではなかった。
思い出せば、この初戦の前半、象徴的なシーンがあった。
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Profile
市之瀬 敦
かつてポルトガルのサッカー記事の文章は質が高く、その詩的な美しさは著名な作家も絶賛したくらい。美しいサッカーの礎は美しい文章である、を信条に今日も原稿執筆に取り組んでいる(つもり)。成果が出ているかどうかは心もとないものの、ひたすら前進あるのみ。ポルトガル語世界の言語の変容や文化の多様性を研究する先生でもあります。
