山形で「一番はゴール」を有言実行する9番、高橋潤哉の達観した“ゲームチェンジャー”像
途中出場で流れを変えるJの「フィニッシャー」たち#5
高橋潤哉(モンテディオ山形)
アーセナルのミケル・アルテタ監督は『BBC』のインタビューで「フィニッシャー」の重要性について言及している。ラグビーでは試合終盤に投入される選手を「フィニッシャー」と呼び、アルテタは現代サッカーでは「先発よりも重要」とまで主張。実際、アーセナルはトロサールやマルティネッリが流れを変える存在として機能している。5人交代制の導入で“16人の戦術”が必要になった今、ベストメンバーという概念は希薄になってきている。試合を決める“切り札”は最後まで取っておくもの? 2025シーズンのJリーグで輝いている「フィニッシャー」にフォーカスを当てる。
第5回では、2023シーズンから今季までの3季のJ2において計59試合に途中出場しながら、リーグ最多の16得点を叩き出している高橋潤哉をピックアップ。モンテディオ山形の9番が考える“ゲームチェンジャー”像は、達観したものだった。
昨季も途中出場から得点を量産。90分換算すると…
今季のJ2第36節を終えた時点で、モンテディオ山形・高橋潤哉は6得点。ディサロ燦シルヴァーノの11得点に続き、土居聖真と並ぶチーム2位タイのゴール数を挙げている。今季出場数もこの2人とほぼ変わりはなく、“主力”と言っていい存在だが、出場時間を比べると事情が変わってくる。ディサロの2199分、土居の1891分に対して、高橋は867分にとどまっている。ディサロ、土居が先発で起用されているのに対して、高橋は途中出場が多いためだ。このところは土居と代わってトップ下に入るケースが多い。32試合の出場数に対して、先発は4試合。6得点のうち、先発した試合で挙げたのは1得点のみで、他の5得点は途中出場の試合で決めたもの。圧倒的に少ない時間で効率よくゴールを生み出している。
ただし、途中出場で流れを変える「フィニッシャー」としての特徴がより顕著なのは、昨シーズンの成績だ。
年間で35試合に出場し、11得点。これは高橋のキャリア初の二桁得点になる。この2024シーズンの先発出場は16試合と比較的多かった。途中出場19試合と大差はなく、一方で、出場時間では先発が1344分、途中が447分と大きな差がついているが、その長さと得点の多さは比例しない。先発で挙げた得点は2得点、途中が9得点。ゴールが生まれているのは、圧倒的に途中出場から、ということになる。そのプレータイムだけで90分換算すると、1.8を超える驚異的なペースでゴールを量産していることになる(先発出場の場合は0.13)。
ただし、これには若干、情報の補正が必要になる。このシーズンの山形は、前半でFW陣に負傷離脱が相次ぎ、高橋が[4-2-1-3]のCFで先発する試合が、連戦も含めて増えていた。当時のチームはまだ攻撃の形が作りきれていなかったため、高橋へのラストパスが少なかったことに加え、彼自身も連戦で疲労が溜まり、ようやく迎えたフィニッシュシーンで枠をとらえきれないなど、精度の低さも目立っていた。
とはいえ、そうした様々な事情はあるにせよ、途中出場からのゴール数が突出しているのは明らかだ。開幕戦のジェフユナイテッド千葉戦は0-1で折り返した後半開始からピッチに立ち、高橋の2得点で逆転。3-2の勝利に貢献した。
第17節・ロアッソ熊本戦では60分にピッチに入ると、0-0の後半アディショナルタイムにPKのキッカーを務めて勝利に導いている。プレーオフ進出に向け、9連勝と激しく追い上げたシーズン終盤も毎試合途中出場。終盤に3点目を奪いダメを押した第32節・愛媛FC戦と第37節・水戸ホーリーホック戦、0-1からの同点ゴールでのちの逆転劇につなげた第35節・清水エスパルス戦など、チームを勢いづけるだけでなく、自らゴールを奪うことで勝たせてきた。
「点取ってこい」渡邉前監督の一言が転機に
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Profile
佐藤 円
1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形のタウン情報誌編集部に在籍中の95年、旧JFLのNEC山形を初取材。その後、チームはモンテディオ山形に改称し、法人設立、J2参入、2度のJ1昇格J2降格と歴史を重ねていくが、その様子を一歩引いたり、踏み込んだりしながら取材を続けている。公式戦のスタジアムより練習場のほうが好きかも。現在はエルゴラッソ山形担当。タグマ「Dio-maga(ディオマガ)」、「月刊山形ZERO☆23」等でも執筆中。
