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「現在は共同保有。次のステップでの移籍金を狙っている」横浜FC・山形伸之CEOに聞く、永田滉太朗ポルト移籍の舞台裏(後編)

2025.10.03

【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#10

J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。

第9&10回は、昨年取り上げた横浜FCのMCO戦略の具体的なモデルケースとして、永田滉太朗のポルト移籍の舞台裏について、山形伸之CEOに詳細を明かしてもらった。

後編では、今回の移籍で横浜FC側が受ける恩恵は何なのか? オリヴェイレンセとのMCOプロジェクトがアカデミーや選手スカウティング、キャリアプランの設計にどんな影響を与えているのかについて、田端秀規GMも交えて掘り下げてもらった。

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MCOをワークさせるために必要な「現場の理解」

——若さ・タイミングという点では、永田選手は高校3年の夏にポルトガルに渡りました。近年、プロを経由せずに海外に行く例も増えてきましたが、まだサンプル数が少なく、「成功するのか、しないのか」という点が注目を浴びているように感じます。

山形「我々としてはこのプロジェクトをしている以上、まずは成功する確率を上げる作業をしていくことで、収益に結びつくところが投資としての成功だと思ってやっています。その点、例えば超高校級の選手が18歳でヨーロッパに1人で行っても、何人に1人成功するかという世界だと思うんですが、永田は超高校級と評価されていた選手ではないので、なぜその永田がポルトに行くことができたのかという点がこのプロジェクトの肝の部分だと思っています。必ずしも超高校級だから成功するわけではないし、永田のように超高校級でなくてもああいうキャリアパスを描ける選手も作れるんだということを証明できたことに非常に意味があると思っているので、他と比べて成功したかどうかというより、現状の我々はこういうことができるクラブですということが大事なのかなと思っています」

——実際にこのMCOがなければ19歳の選手がポルトガル2部で25試合出場するというハードルは高いものだと思います。その仕組みづくりはどのような要因が大きかったと思いますか。

山形「そんなに特別なことをやっているわけではないですよ(笑)。ただ、行く時点では何もわからない選手が行くわけで、例えば自分の子どもだと思えば甘やかしすぎてもダメだし、厳しすぎてもダメだし、ある程度チャレンジもさせながら、でもガーンと落ちた時はしっかりサポートしてあげるとか、その体制が大事だと思います。また年間を通してこのプログラムをしっかりこなしていけば生活に慣れていけるよという部分をしっかり提示してあげることですね。まずは環境に慣れないと本来の力は出せないので。海外挑戦をするための準備をする学校というような感覚です。ただ、選手を育成して市場価値を高めたいのであれば育てるところにパワーをかけるのは当たり前だと思っているので、特別なことをしているつもりはありません」

——その準備をしながらポルトガル2部で出場経験を得られるというのは大きなメリットですね。

山形「その中ですごく重要になるのが現場のフォーマットですね。現場の監督、コーチ、そしてスポーツダイレクターがこのプロジェクトの理解がないと、ただの押し付けになってしまいますし、押し付けてしまった時点で関係性は破綻してしまいます。こういうプロジェクトにしっかり理解を得て、働いてくれる人をリクルートできているかということがすごく重要です。今のオリヴェイレンセのテクニカルスタッフのフォーマットはそれがしっかりできていると思います。日本のこともよく理解していますし、監督やスタッフも横浜FCの試合を全部見てくれています。話していると自然と『勝ったね、負けたね』というのを気にしてくれていますし、ジョアン・パウロのようにオリヴェイレンセから横浜FCに来た選手もいます。現場が理解していてくれないとそうはならないので、まずは彼らにこの日本のプロジェクトを理解してもらうこと、それも日本人贔屓にしてくれっていうわけじゃなく、まずはしっかりこう育ててほしい、こう鍛えてほしいということをしっかり話しています」

ジョアン・パウロ

——おそらくJリーグの監督にそのプロジェクトを理解してもらうこともそう簡単ではないと思うので、フォーマットを作るのも大変な仕事だと感じます。

山形「ただ、そこは日本より海外の監督の方が理解していますね。海外の監督さんは若い選手をどんどん使うように感じます」

——重い指摘です。

山形「ヨーロッパではどのようにサッカービジネスが成り立っているかをしっかり理解している人が監督になっていて、彼らも若い選手を使ってその選手が活躍して売れれば、クラブが喜ぶのをわかっていますし、それが自分の評価にもつながるということをわかっています。『この監督は若い選手を使って、クラブに貢献できる監督なんだ』ということが結果として出るじゃないですか。そうなると他のクラブからも当然声がかかってきます。大事なのは勝つことだけではないので。もちろん勝つことは大事ですが、ポルトガル1部でチャンピオンになれるチームは限られているので、それ以外の監督が何をしなきゃいけないかというのはあって、みんな若い選手をどれだけ輩出するかというのは常に考えていますし、そこは大きなお金が動くヨーロッパのマーケットのど真ん中にいる人たちの方が理解が深いなと思います。

 日本は毎年どのチームも優勝を目指すという話があるように上を目指すためにやっているチームがすごくフォーカスされますが、若手を育てて売っていこうと思っている監督さんはあまりいないと思います。日本はビジネスの要素の中にもスポーツの要素がかなり強いので、やっていてそこの差はすごく感じますね」

ポルトと横浜FCとの共同保有。移籍ビジネスでの狙い

——横浜FCとしてはかつて斉藤光毅選手をヨーロッパに送り出したケースもありましたが、永田選手のケースではどのような収益を得られていますか。

山形「まず永田に関してですが、実は現在はポルトと横浜FCの共同保有になっています。パーセンテージまではちょっと言えないんですが」

——つまり次の移籍では横浜FCにも移籍金収入があると。

山形「そういうことです。逆に横浜FCからの移籍ではまだ移籍金が発生していません。つまり次の移籍が成功する可能性を上げるために、オリヴェイレンセというお店ではなく、ポルトBというもっと売れるお店に置いてもらっているというイメージがわかりやすいかもしれません。オリヴェイレンセから移籍するよりもポルトから移籍した方が売れる金額は高くなりますし、その次のステップの移籍金というのが目先で最も狙っているものになります。また連帯貢献金に関してもジュニアユース、ユースと6年間横浜FCにいた選手なので、そこの権利も持っています。斉藤光毅選手と同じようにどんどん活躍してもらって、上に行ってもらって、連帯貢献金がつどつど入っていくようになってほしいなと思っています」

——実際にポルトBからの移籍となると値付けも期待できますよね。その場合、どのくらいの金額を想定していますか。

……

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Profile

竹内 達也

元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea

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