「MCOの現実的な計画としてある程度想定していた」横浜FC・山形伸之CEOに聞く、永田滉太朗ポルト移籍の舞台裏(前編)
【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#9
J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。
第9&10回は、昨年取り上げた横浜FCのMCO戦略の具体的なモデルケースとして、永田滉太朗のポルト移籍の舞台裏について、山形伸之CEOに詳細を明かしてもらった。
前編では、なぜ「超高校級と評価されていた選手ではなかった」永田がポルトへと移籍できたのか、MCOのメリット、本人の適性と努力も含めてポルトガル2部リーグでプレーすることで得られる欧州でのリアルな市場価値について解説してもらった。
決め手になったのは「2部25試合出場」という実績
——これまで他のJクラブでも海外提携クラブへの移籍・レンタルというケースはありましたが、さらに次のステップに行けるのは異例です。この移籍が実現したことをクラブとしてどう受け止めていますか。
山形「まず横浜FCにとってオリヴェイレンセというクラブは提携ではなく、同一オーナーによるマルチクラブ・オーナーシップ(MCO)ということでやっているので、レンタルで行かせることに関しては何の障壁もありませんでした。その上で、ポルトガル2部リーグというマーケットを考えると、MCOの現実的な計画としてある程度こういうことが起きるという想定はしていました。ただ、そのためにはある程度のプレータイムを残さないといけないし、ゴールも取らなければいけません。永田は2年目に25試合1500分以上出て、3ゴール1アシストでしたが、本音を言えばもう少しゴールは欲しいなとは思っていました。7ゴールくらいあればもう少し違うオファーがあったかもしれません。ただ今回はポルトとオリヴェイレンセとの関係性もあって、試合をチェックしてもらっていたところがあったので、少しアドバンテージがあったとは思っています」

——永田選手のどのようなところが評価されたんでしょうか。
山形「ポルトガル2部リーグはポルトとベンフィカのBチームがいて、今年からスポルティングのBチームも入ってきたんですが、これらのチームは平均年齢20歳とか21歳でやっている一方、それ以外は大人のチームなので、18歳とか19歳で試合に出続けているような選手はなかなかいません。やはりどこも1部リーグ昇格を目指しているので平均年齢も意外と高い。もちろん投資対象になるような若い選手も一部にはいますが、永田の場合は18歳から向こうに行って、19歳までの2年間で30試合出ているので、そこが大きかったと思います。この年齢でこのサイズ(158cm)で、フィジカルコンタクトが多い2部リーグで出ていたというのは相当目立ってはいましたね」
——僕が現地で取材したのは2年生の頃のクラブユース選手権でしたが、その時でも小柄な印象がありました。ただ日本人から見る永田選手の印象と、ポルトガルのリーグ環境での印象も大きく異なるように思います。
山形「おそらく彼の場合、日本にいた時に見ていただいた印象だと、サイドでドリブルしていたイメージだったんじゃないかなと思います。そこからカットインしてシュートを打って、みたいな」
——まさにそうでした。
山形「ただ向こうではウイングというと、とんでもないアフリカ出身の選手もいたり、永田の比じゃないくらいに体も大きかったり、強くてゴリゴリ行くような選手しかいないんですね。そのため永田はだんだん間で受けて、ゲームを作るようなプレーが多くなっていきました。止める・蹴るの技術は非常に高かったので、彼に預けてはたいて、リズムを作る選手として機能していましたし、日本人らしくハードワークするので、まだなかなかボールを奪い切れるところまではいっていませんが、守備で追いかけ回して、小さいながらも身体をしっかりぶつけるというところは評価されていたんじゃないかなと思います」

——ちなみに先ほど「ポルトとの関係性」という話もありましたが、もともと行き来が多かったんでしょうか。
山形「ここはわかりやすくて、オリヴェイレンセのスポーツダイレクターがヒカルド・フェルナンデスという方で、モウリーニョ監督のもとでチャンピオンズリーグ優勝した時にポルトでプレーしていた元選手なんです。また地理的にもオリヴェイレンセはポルトから車で約30分ほどの距離にあって近いので、これまでもポルトの若い選手をレンタルで受け入れていた関係性もあって、非常に仲良くしているクラブです」
ハングリーな世界に適応できた「孤独を楽しめる」パーソナリティ
——ポルトを始めとしたメガクラブは日本でも知名度がありますが、ポルトガルは1部リーグ内でも規模の差があるという話を耳にします。2部リーグはどのような環境なのでしょう。選手にとっても鍛えられる場なのかなと想像していますが。
山形「おそらくご想像の通り、かなりハングリーな世界ですね。日本のJクラブでアカデミーから育ってトップに昇格してという選手たちが通るような、いろんなものが整った環境ではないので、すごく過酷ですね。そういう意味ではハングリーさが身につきやすい環境ではあると思います」
——そうした環境で試合に出続けるという経験は並大抵のことではないと感じます。永田選手の成長をどう見ていましたか。
山形「1年目は本当に苦労していましたね。言葉はわからない、ご飯も作れない、友達もいないといった何重苦なんだろうという状況だったと思います。ただ、どうやったら周りに受け入れられるのか、どうしたら自分の身体を作っていけるのかというところに向き合わなきゃいけない環境が作られているので、もうやらざるを得なかったんですね。またその中で『じゃあお前、一人でやってこいよ』じゃないのが我々のプロジェクトです。語学もやる気があればしっかりサポートして、毎日学習ができるようなプログラムを作っていますし、食事も一応はクラブに食べられるところはありますが、彼は自分の身体作りに向き合って料理も作れるようになっていました。ほったらかしにするのはダメなので、悩んだり困ったりした時に、クラブの日本人スタッフがいて、僕らがいて、しっかりサポートしてあげられるような環境を作っています」
——彼のパーソナリティも合っていたんですか。
……
Profile
竹内 達也
元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea
