FEATURE

着実な土台の上に立脚するアカデミーの発展と世界戦略。RB大宮アルディージャがレッドブルと見据える選手育成の未来

2025.09.20

【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#6

J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。

第6回は、クラブとしても大きな転換機を迎えているRB大宮アルディージャ。とりわけアカデミーでは、既にレッドブル・グループとの新たな取り組みが動き出している。この夏に行われたU18の選手のヨーロッパ派遣を取り上げつつ、今後の彼らの進むべき方向性を探る。

U18の4選手が“レッドブル連合”に加わってオランダの大会に参加!

 8月も半ばに差し掛かろうという頃。第49回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会でグループステージ敗退となった、RB大宮アルディージャU18の面々の傷心も癒え始めていただろうか。だが、その内の4名はすでに新たなステップへ向け、大きな野心を胸にヨーロッパへと旅立っていた。

 オランダの名門、PSVアイントホーフェンが主催するオッテン・イノベーション・カップという大会がある。1947年、オッテン・カップとして始まり、2023年より現在のオッテン・イノベーション・カップに模様替え。今年で75回目という伝統あるユース年代の大会で、今年は主催のPSVの他、チェルシー(イングランド)、アトレティコ・マドリッド(スペイン)、ベンフィカ(ポルトガル)といった世界でもトップレベルの8チームが参加した。

 レッドブルが大会協賛していることもあり、大宮と同じレッドブル・グループであるRBライプツィヒ(ドイツ)が参加したのだが、これがライプツィヒ単独チームではなく、ニューヨーク・レッドブルズ(アメリカ)、レッドブル・ブラガンチーノ(ブラジル)からの選手たちも加わった、大宮を含めた4チームのレッドブル連合チームとしてオランダ、アイントホーフェンへ乗り込むこととなった。

 大宮U18から参加したのは、酒井舜哉、神田泰斗、小林柚希、中島大翔の4名。4選手は丹野友輔U18監督と共に、大会開幕前にライプツィヒに合流。まずは連合チームとしてのトレーニングを積んだが、そこで早速世界レベルの洗礼を浴びた。

 「強度は本当にもうすごくて、普段自分たちが練習してるような強度だったら潰されちゃう、みたいな感じでした」(中島)

 「ライプツィヒのトレーニングは基本的に大宮のトレーニングに似てるところがけっこうあるんですけど、ディテールの部分…切り替えの速さとか、守備で寄せられる距離とか、その辺がこっち(大宮)とは違いますね」(丹野監督)

 本場のインテンシティに多少面食らいながらも、チームに加わって大会に向かった。

「どこでもできるような選手にならないと上にはいけないと学べた」(中島大翔)

 大会は8月15日に開幕。4チームずつに分かれ15日、16日とグループリーグを計3試合行い、最終日の17日に順位決定戦2試合を行なう試合日程に臨んだ。

 試合では急編成のチームで“あるある”の、本来のポジションではない位置での起用もあった。ある試合では、ストライカーの中島とドリブラーの小林が、2人でボランチを組むということもあった。

 「海外に出ると自分が普段やってるようなポジションではプレーできない。どこでもできるような選手にならないと上にはいけないっていうのはしっかり学べた」(中島)

 コンディションが整わず、神田は出場回避となったが、他の3人は揃って開幕戦のクラブ・ブルッヘ(ベルギー)戦に先発出場。開始早々の6分、酒井がレッドカードで退場となるアクシデント。その数的不利の影響もあって立て続けに2失点し、大会は黒星スタートとなった。

 2戦目は出場停止の酒井を除く小林と中島の2人が先発したが、ホームPSVに圧倒され、0-5と大敗。ベンフィカとの3戦目では、出場停止の明けた酒井と中島が先発。チームとして今大会初ゴールを挙げることに成功したが、その後逆転を許し1-3と敗戦。3戦3敗でグループリーグを終え、最終日は5-8位決定戦に回ることが決定した。

 だが、大宮の4選手の大会はここで終わることとなった。別の試合に出場していたライプツィヒの選手がさらに合流して、選手の母数が増えたこともあったが、その中でもニューヨークの選手は1人、ブラガンチーノの選手も1人出場することになったものの、大宮からは誰もメンバーに選ばれることはなかった。

突き付けられたシビアな現実。痛感した語学の必要性

 「評価もシビアですよ。最終日は(大宮からは)誰も試合に出られなかったんですが、選手には言わないけど、自分が蒔いた種だ、だから出場時間が減ったって、スタッフ間で話している中でそんなようなことを言ってました。ブラジルの選手とアメリカの選手の2人だけが出られたんですけど、グループリーグで評価して使える使えない、というのもあったと思う。2人ともサイドバックだったんで、ポジション的なものもあったとは思いますけどね」(丹野監督)

 もしかしたら、個人としてポジションをつかむ、出場機会をつかもうとする貪欲さが足りなかった……。いや、足りないように映ってしまったのかもしれない。基本的な技術にしても、丹野監督は「パス練習とかでも日本人の方がうまいけど、でも実戦になると彼ら(日本人以外)の方がうまいな」と評しながら、こう続けた。

……

残り:3,331文字/全文:5,592文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

土地 将靖

1967年埼玉県生まれ。1993年のJリーグ開幕と同時に試合速報サービスのレポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーに転身し大宮アルディージャに密着、各種媒体への寄稿を細々と続けている。2005年より続いていた大宮全公式戦の現地直接取材はコロナ禍で途絶えたが、近年は下部組織の取材にも注力し、精力的に活動している。

RANKING