スタジアムに続く、V・ファーレン長崎の新しい挑戦。ジャパネットのSTVV参画はMCO構想の布石?
【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#1
J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。
第1回は、V・ファーレン長崎の新しい動きについて考察する。親会社であるジャパネットホールディングスがシント=トロイデンVVの株式を取得した先にある狙いとは何なのか?
松澤海斗、STVV移籍の異例対応
「移籍を前提とした手続きと準備のため、チームを離脱することとなりました」
近年、シーズン中にこんなリリースが出され、その後にチームのレギュラー格となる選手の海外移籍をすることが増えた。そんな中で、6月28日にV・ファーレン長崎からシント=トロイデンVV(STVV)へ完全移籍した松澤海斗の移籍も同様の流れではあったが、その送り出し方はクラブを挙げて移籍を歓迎するようなムードがあり、他クラブの移籍とはやや趣が異なるものだった。
何しろ空港を出発する時からV・ファーレン長崎の広報が完全密着である。渡航先のベルギーでも松澤の様子を発信し、移籍発表後はSTVVでトレーニングする姿まで公開と、クラブを挙げて移籍を応援する姿勢を鮮明にした。かつての0円移籍のようなことが減り、移籍に対するネガティブなイメージは薄まっているとはいえ、シーズン中に戦力を放出した側がここまで応援する姿勢を打ち出すのは珍しい。
しかも、当時のV・ファーレン長崎はリーグ前半の苦戦を受けて監督を交代し、後半戦の巻き返しに全力を誓っている真っ只中だ。途中出場中心とはいえ、貴重な攻撃のアクセント役である松澤の移籍は痛手以外の何物でもない。それでも、彼の移籍を歓迎したのはなぜか?
その答えは約1カ月後、親会社であるジャパネットホールディングスによる7月22日の発表で明らかになる。
将来的にはSTVV株式の100%取得も示唆
「シント=トロイデンVVとの資本業務提携および プラチナスポンサー契約締結のお知らせ」
同日に開催された会見の席上、ジャパネットホールディングスが、2022年のマルハン、23年のセプテーニに続き、STVVにとって4社目となる資本業務提携を結び、STVVのプラチナスポンサー契約を締結。会見前の時点でSTVVを運営するDMMグループより、STVVの株式を19.9%取得し第2位の株主になることが発表されたのだ。
さらにジャパネットグループのトップで、V・ファーレン長崎の代表取締役会長である髙田旭人氏は、将来的にSTVVの株式を100%取得する可能性も示唆したという。将来的にマルチクラブ・オーナーシップ(MCO)に乗り出す布石であり、1カ月前の松澤移籍はその第一歩だったのである。
マンチェスター・シティをはじめ12クラブ(100%の株式保有は5クラブ)の運営に関わる「シティ・フットボール・グループ(CFG)」、RB大宮アルディージャを保有する「レッドブル・グループ」に代表される、一つの資本やオーナーが国籍の異なる複数のサッカークラブを保有・運営するMCO。
V・ファーレン長崎の運営母体であるジャパネットグループ、ひいては髙田旭人氏に、いつ頃からMCOの構想があったのかはわからない。
通販事業で成功し、今もそれを経営の柱とする同社だが、ここ数年はスポーツビジネス部門を通販と並ぶ柱とすべく体制を整え、人材を集め、プラン策定を進めてきた。その延長線上としてMCOをイメージしていた可能性もあるだろう。だが、具体的に今回の話が動き出したのは今年に入ってからだと思われる。
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Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。
