「農業×脱炭素社会×地域」の循環。水戸が取り組む「GXプロジェクト」とは?
【特集】水戸は一日にして成らず#4
J2第23節終了時点で水戸ホーリーホックが首位に立っている。特に5月以降は10勝1分と勢いが止まらない。小島耕社長と西村卓朗GMによる「ピッチ外の取り組み」は常に高く評価されてきたクラブだったが、「やりきる 走りきる 勝ちきる」をテーマに掲げた森直樹監督の下でついに地道な努力が花開いた。水戸は一日にして成らず――クラブ史上初のJ1昇格が見えてきた今、あらためて躍進の理由を考えてみたい。
第4回は、今年6月に水戸が発表した新規事業「GXプロジェクト」について掘り下げる。社会課題に対してJクラブが果たせる役割とは何なのだろうか? 「気候変動」という大きな問題への小さな一歩、このプロジェクトに込められた想いを伝える。
6月30日、水戸ホーリーホックは茨城県東茨城郡城里町磯野で地域と持続可能な未来を目指す新事業「GX(グリーントランスフォーメーション)プロジェクト」の一環として、再生可能エネルギーと農業を融合させる「GRASS ROOTS FARM 太陽光発電所」を始動した。

農事業のノウハウを活かしたソーラーシェアリング
クラブが新規事業「GXプロジェクト」を開始し、Jリーグクラブ初となる「ソーラーシェアリング」に取り組むことを発表したのは昨年5月。
茨城県は農業が盛んな一方で、高齢化や後継者不足による耕作放棄地の増加という課題も抱えており、地域に密着して活動を行うクラブとして、農業を広め、農業の良さを伝えていくために2021年9月に農事業「GRASS ROOTS FARM」を立ち上げた。そして、ホームタウンである城里町の約1000平米の畑でニンニクの栽培をスタートさせた。
2022年にはサブスクリプションサービス「GRASSFARM BOX」を開始。全国3位の農業県である茨城の農作物や食品を毎月全国の契約者に届けるサービスを展開し、その他にも圃場を活用したファン・サポーター向けのイベントやホームゲームでの地域特産品の販売など、多岐に渡る活動を実施してきた。
Jリーグは気候変動という大きな問題を抱えていた。
豪雨や台風などを理由に中止となった試合数が2018年を境に約5倍(2024年12月時点)に増え、近年Jリーグが目指す「安心安全な運営」、「安心してお客さまをお迎えした試合の開催」というフットボールそのものにも危機感を持たざるを得ない環境と直面する中、2023年に「Jリーグ気候アクション」を開始。5年後、10年後に目指す姿を落とし込んだロードマップを策定。社会の一員であるJリーグ・Jクラブが気候変動問題に関するアクションを発信することで、意識が変わり、意識が変わればおのずと行動が変わるという考えのもと、2030年には、便利で環境に優しい持続的な社会システムが実現することを目指して、新たな活動に取り組み出していた。
水戸はJリーグが掲げる「アクション」に賛同し、新たな取り組みに挑戦することを決断した。それは化石燃料をクリーンエネルギーに転換して脱炭素化社会を構築していく取り組みであるGX事業に、「GRASS ROOTS FARM」で培ったノウハウを活かし、Jリーグクラブとして初の「ソーラーシェアリング」を展開することだった。

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Profile
佐藤 拓也
1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。
