「もう1日1日を必死にやるだけ。そこはもうやります」積み重ねてきた手応え、昇格への熱き思い。ジェフ千葉・小林慶行監督インタビュー(後編)

2025Jリーグ前半戦のサプライズ監督#9
小林慶行監督(ジェフユナイテッド千葉)
2025シーズンのJリーグも折り返し地点を迎えた。前評判通りにいかない激動のシーズンとなっているが、その立役者とも言える「サプライズ監督=ポジティブな驚きを与えてくれた監督」たちをフォーカス。チーム作りの背景にある哲学やマネージメントについて掘り下げてみたい。
第9回は、ジェフユナイテッド千葉を指揮する小林慶行監督のインタビュー後編。プロの指導者として身につけた感覚や価値観、千葉の指揮官としての変化について、大分トリニータの名物番記者であるライターのひぐらしひなつが迫る。
引退後のことを考えるくらいならば練習した
――小林監督は、指導者になるということをいつ頃から考えるようになったのですか。
「いや、現役時代は考えたことがなかったんです。引退後の自分について。だからいまの選手たちはすごいなと思いますね。引退したあとに社会人のチームに行って社会性を身につけて、セカンドキャリアで社会に出るまでのステップを踏んでいる選手もたくさんいるじゃないですか。働きながらサッカーをして、お金をいただきながら次の準備をしてという方がいたりとか。
僕らの時代はまだそういうケースが少なかったこともありますけど、どっちかというと僕自身も頑固なタイプで、自分の現役キャリアではアルビレックス新潟が最後の3年間になったんですけど、そのときに33、34、35歳の年で。33歳のときはスタメンで出してもらっていて、34歳もケガが増えてちょっときつくなってはきたけどスタメンで、最後の1年はほぼほぼ出られなかった。そういう中でも、こういう状態だから引退したら何をしようかって考えたことがなかったんですよね。現役のうちにそういうことも考えなきゃっていう風潮がサッカー界にも少しずつ出てきていた頃で、自分も考えなきゃって思うときもあったんですけど、一方でもう一人の自分が出てきて『いや、サッカー選手として終わったあとのことを考えるんだったら、あと10本でも20本でもロングボールの練習してこいよ、シュートの練習してこいよ』と思ってしまう性格だったんですね。まずそこで自分自身が100%の力を出せているのかどうかというのを自分自身の目で見て『もっとやれよ、やらなきゃ後悔するんじゃねーの』と思うような。だから引退後はどうしようと考えることもその準備もなくて。でも、本当に全力でサッカー選手としての人生を全うしていれば、その姿を誰かが見てくれるんじゃないかとは考えていました。ちゃんと真面目にサッカーに向き合っていればその姿を見てくれてる人がいるんじゃないかと。それがいいのか悪いのかはわからないし、いま思えば甘えていたのかなと思ったりもしますけど、セカンドキャリアに向けて指導者になるとか何になるとか、何かの準備をしなきゃっていうのは本当になかったです。
ただ、新潟で引退セレモニーをしてもらったときに、多分、引退を発表してから翌シーズンのゴールデンウィークぐらいだった思うんですけど、そのときに、自分の言葉で新潟のサポーターの方々の前で『指導者としてもう一度ここに戻ってこられるように頑張ります』という話をしたんです。引退を決めてからのその数ヶ月の間に、監督になるという目標を立てていた。そのために何をしなければいけないかというところで、その翌年は古巣からスクールのコーチから始めないかというお話をふたついただいたんですけど、そうするとA級のライセンスを取りに行くのが順番待ちになってしまう。僕は35歳まで選手をやっていたので、同級生でももう指導者として10年のキャリアを積んでる人たちがいて、彼らに追いつけ追い越せと考えたら、もう時間がないなと。自分としてはやはりJリーグで監督して、そこで結果を出すことに最初の目標を設定したので、自分よりはるかに経験値を持ってコーチとして優秀な人たちにどうやって勝っていこうかと。自分自身に残された時間の中で逆算していくと、引退の翌年にはA級ライセンスを獲得したい、S級はいつまでに取りたいと、つねに時間がないと思いながらその後を生きて、それに向けて必要なことをしてきたんです。
だから翌年はどこにも所属することなくフリーの立場で、当時で言うとスカパー!の解説者をやらせてもらいながら、自分の地元の中学生のチームを少し指導したり、他の人たちのトレーニングを見学させてもらったりといったことをしていました」
――いろんなチームの解説をすると、それもまたサッカー観の奥行きの広がりに繋がったのではないですか。
「それはやはりありますよね。そこまでいろんなチームを試合でしっかり見るということは選手時代にはなかなかないことですし、解説も、自分の目標にたどり着くためにやっていたというか、絶対に役立つ能力を向上させられると思っていたので、そのお仕事を受けさせてもらっていました。マッチアップする2つのチームを分析した中で、じゃあ何が起きるんだろうと自分の中で最初にイメージしておくことで、実際にゲームの中で何が起きて、振り返ってみてどうだったのか、自分の最初の予想はどうだったんだといったところは、解説業をやれば必ず求められます。それはおそらく監督やコーチとしても必要な能力だと思うんですよね。ましてやしっかりと言語化して第三者に伝えなくてはならないので、より難しい作業にもなります。視聴者さんがどんな方たちなのか、サッカーをコアに見ている方たちなのか、それともライト層と呼ばれる方たちなのかっていう番組の違いなどもあるわけじゃないですか。だからそういうところも考えて、じゃあこんなことが必要だよねと。試合よりも選手の裏側の情報をたくさん入れた方が喜ぶ番組もありますし、より戦術的なところを話した方が喜んでもらえたり、そもそもそれを求められる番組もありますし。そういう判断、情報収集の質の部分なども全て繋がっていると思っていました。そういう部分を自分の中でも楽しみながら、毎回、前向きにチャレンジさせてもらっていましたね」
――スカパー! での解説も非常にロジカルで分かりやすかったですが、いまのお話を伺っても、やはり李さんの逆算的な考え方というか、きちんと目的、目標を明確にされた中で全て動かれてきたんですね。
「そうですね。選手生活を終えたあとの目標が本当に明確になったので、そのために、ライセンスの問題であるとか自分の指導者としての能力を上げるということ、やらなければいけないことが自然に浮かび上がってきたような気がします」
先輩であるナベさんと本気でぶつかり合った仙台時代
――その監督就任に至るまでに、コーチとして他のプロクラブでお仕事されましたよね。最初は仙台で。その時期からコーチとして監督に向けての道筋みたいなのは見出していたのですか。
……

Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg