初のJ2で健闘中!FC今治の3バック戦術に表れる“元教員”倉石圭二監督の分析力

Jリーグ3バックブーム探求#7
なぜ、Jリーグに再び3バックブームが到来しているのか?日本サッカーの戦術史も振り返りつつ、3バックの伝統があるサンフレッチェ広島から、今季より本格導入した町田ゼルビアに、大木武監督が独自性を貫くロアッソ熊本まで注目クラブを参考事例に流行の理由を探求する。
第7回は、初のJ2で第11節時点では3位に浮上するなど健闘中のFC今治に注目。3バック戦術に表れる“元教員”倉石圭二監督の分析力とは?
FC今治における3バックの歴史は非常に浅い。
昨季までJ3で過ごした5シーズンの中でチームが主に採用してきたのは4バック。戦術的なオプションとしてわずかに3バックで戦う場面はあったものの、かつての今治は“4バックのチーム”というイメージが強く、本格的に3バックへとシフトしたのは昨季半ばからだ。
しかし、このカテゴリーを上げた2025シーズン、序盤戦から快進撃と呼ぶべきチームの活躍ぶりを見るにつけ、かつての4バックのイメージは過去のものに。それほどまでに今治の3バックはしっくりと来ている。
クラブ史上初のJ2昇格を決めた2024シーズンも、当初は4バックだった。チームは開幕4連勝とスタートダッシュに成功するも、その後は連敗と連勝を交互に繰り返す不安定さを露呈し、一時は11位にまで順位が後退。しかし、好転のきっかけとなったのは3バックへのシステム変更だった。
J3第17節・SC相模原戦、チームはスタートの布陣から3バックで臨み、2-1で勝利を挙げる。それまでにも試行錯誤する中で何度か取り入れた場面はあったが、それらはどちらかと言えば相手の攻撃に対応するためのやや後ろ向きの試み。しかし、この相模原戦では3CBの左右に機動力があり、攻撃面にも強みを発揮できる市原亮太、加藤徹也を配置。するとチームに躍動性が生まれるとともに、守備が整理されてマークがはっきりしたことによってその強みである走力が大きくプラスに転じ、成績は目に見えてV字回復。今治はその試合を含め、残り22試合すべてを3バックで戦ったが、その戦績は15勝5分2敗という圧巻のもの。シーズンをぶっちぎりで制したRB大宮アルディージャを上回るハイペースで勝ち点を積み上げ、見事に2位で自動昇格の座をもぎ取った。
新監督の構想は4バックも…質実剛健の3バックへ回帰
大きな成功を生んだ今治の3バック。そのベースを受け継ぎ、J2での新たな船出に指揮を任されたのは倉石圭二監督だ。
地元の宮崎県で高校の教員をしながらサッカー指導者としてキャリアをスタートさせた倉石監督だが、2017年にヘッドコーチとして入閣した当時JFLのテゲバジャーロ宮崎で頭角を現す。2020年に監督としてチームをJ3昇格へ導き、Jリーグの舞台に立った翌年はS級コーチライセンスを保持していなかったためにヘッドコーチに回ったが、昇格1年目にしてJ3で優勝争いを繰り広げる躍進を支えた。
その後は2022年から2023年までは横浜FCで四方田修平監督に、2024年にはV・ファーレン長崎で下平隆宏監督に師事。経験豊富な指揮官の下で指導者としての知見を広げている。今年から率いる今治は昨季の主力がほぼ残留し、当然のごとく開幕戦から3バックでシーズンをスタートした。
しかし、倉石監督は「実は最初は4枚でやることを考えていた」と、当初は4バックでチームを構成するイメージを作っていたという。コーチを務めた長崎は攻撃陣を中心に個の力に秀でた外国籍選手を贅沢に使った[4-3-3]を採用していたため、同様に今治にも前線にマルクス・ヴィニシウス、ウェズレイ・タンキと強烈な個を持つブラジル人FWがいることで踏襲を計算しやすかったのだろう。
しかし、実際にチームが始動すると、その考えはあらためさせられた。

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Profile
松本 隆志
出版社勤務を経て2007年にフリーへ転身。2009年より愛媛FCを中心としたプロサッカークラブの取材活動を始める。サッカー専門紙エルゴラッソ、サッカーダイジェスト等へ寄稿。ライター業とともにフォトグラファーとしても活動する。