ファジアーノ岡山の激しく守って熱く攻める“下克上シャドーコンビ”対談。岩渕弘人と木村太哉が携えるJ1への誓い

【特集】ファジアーノ岡山、 市民クラブがJ1に見る夢#7
2025シーズン、クラブ創設以降初めてJ1を舞台に戦うファジアーノ岡山。1つの大きな夢を叶えた市民クラブは、その先に何を見るのか? 森井悠社長は「岡山のスポーツ業界の中では確かな成長を遂げつつある。(売上)100億円をいろんな形で目指すこと自体は不可能ではない」と壮大な青写真を描いている。悲願の実現に至る過程、そしてその未来にある景色に思いを巡らせてみたい。
昨シーズンのファジアーノを前線で力強く支え、チームとともに初のJ1へと挑戦するのが、JFLから地道にキャリアを積み重ねてきた岩渕弘人と、大卒ルーキーとして2021年に岡山へやってきた元気印の木村太哉だ。今回はシャドーを主戦場とする2人が、ピッチ外でも息の合ったコンビネーションを繰り広げてくれた。
(取材日:1月27日)
「ループの達人」と「ドリブル小僧」がたどり着いたJ1の舞台
──今シーズンは初めてのJ1を戦います。岩渕選手は仙台大から当時JFLだったいわきFCに加入し、ステップアップを続けて大卒6年目のシーズンです。
岩渕「大卒でいわきに入った時はJFLだったので、『J2に行くチャンスはあるかもしれない』という感覚でやっていましたが、正直J1でプレーできるとは思っていなかったです。いわきではクラブと一緒に成長しながらJ2に上がることができ、昨シーズンに加入した岡山でもJ1昇格を勝ち取れました。どんどんステップアップしてうまくいっているように見えるかもしれませんが、簡単なことではなかったです。自分の立場としてはJ1での戦いは失うものは何もないし、挑戦するだけなので、楽しみな気持ちでいっぱいです」
──木村選手は甲南大史上初のJリーガーとしてファジアーノ岡山に加入し、4年間ひたむきにプレーしてJ1にたどり着きました。
木村「大卒からずっとチームにいる中で、岡山からJ1に羽ばたいていった選手をたくさん見てきましたし、そういった人たちを目指して頑張ってきました。今回のJ1昇格は、岡山という場所で一生懸命に続けてきたからこそ勝ち取れたものだと思いますし、岡山を巣立ってJ1に行った選手たちとの対戦は楽しみです。上門(知樹)選手や徳元(悠平)選手、白井(永地)選手をはじめ、お世話になった先輩がたくさんいるので、そういった人たちに『岡山でやり続けても、高いレベルまで行けるんだぞ!』というのを見せられるような試合ができればいいなとワクワクしています」
──J1への挑戦権を勝ち取った昨シーズン、岩渕選手は第11節のロアッソ熊本戦で移籍後初ゴールを決めるまで焦りがあったと言っていましたが、中盤以降は得点を量産してチームトップの13ゴールを記録。シャドーとして隣でプレーした木村選手は、岩渕選手の様子をどのように見ていましたか?
木村「焦りとかは感じなかったですね」
──岩渕選手は隠していた?
岩渕「FWは自分の結果も大事なので、気にはしていましたけど、チームが勝てていたので、落ち込む姿を見せたり、誰かに相談したりはしないようにしていました」
木村「たぶん僕が全然ゴールを決めていなかったから、漏れるほどではなかったんじゃないですか?」
岩渕「確かに、それはある(笑)」
──木村選手はエネルギッシュなプレーで、攻守において数字に表れない部分でも貢献しました。
木村「僕もゴールを取りたいと思ってプレーしていましたけど、たくさん取れるタイプではありません。でも、そこの認識は少しずつ変えていかなきゃいけないと思っています。これまでのシーズンではサイドハーフやウイングバックでプレーすることが多く、チームの勝利に繋がるプレーを多く出すことにフォーカスしてきました。
昨シーズンは1年間を通してよりゴールに近いシャドーを任せてもらいました。そのポジションの選手がゴールを取れなくなると、チームとして苦しくなることを感じた時期もあったので、もう少し数字にこだわりながらやっていきたいです」
──岩渕選手は冷静なループシュートでのゴールが多かったですが、どんな秘訣がありますか?
岩渕「ちょっと性格がひねくれているので、それが出ていると思います」
木村「間違いない(笑)」
岩渕「(笑)。小学生の時からループシュートが大好きで、恥ずかしいんですけど卒業文集に『ループの達人』というテーマで文章を書いていました(苦笑)。GKが前に出ていたらロングシュートも狙うし、人と違うことをするのが好きなんです。昨シーズンはゴールを決めるごとに、ゴール前で落ち着けるようになったり、視野が広がったりして、シュートを打つギリギリまでGKを見られるようになりました。そういうコツをつかんでからはGKのタイミングを少し外せば決められる感覚はありましたね」
──木村選手は力強いドリブル突破が持ち味ですが、どういうふうに身につけたのでしょうか?
木村「小学生の時からずっとドリブルだけをしてきました。監督にベンチから『ドリブルするな!』と言われるくらい(笑)」
岩渕「『パスを繋げ!』とか言われていた?」
木村「そうです。『行くなー!』と(笑)。でも、行き切っちゃえばいいかとも思っていました。あとは、兄と1対1の練習を狭いコートでも広いコートでもずっとやっていました。親にボールを蹴ってもらって、兄に1対1を仕掛けて取られて泣くことを、いつも繰り返しやっていました」

J1昇格プレーオフ準決勝・山形戦。2点に絡んだ木村の“アシスト秘話”
──木村選手はJ1昇格プレーオフという大舞台で、求めていた数字としての結果を残しました。準決勝のモンテディオ山形戦は開始早々からフルスロットルの中、試合終盤に藤田息吹選手のスルーパスに抜け出してダメ押しの3点目を決めました。……



Profile
難波 拓未
2000年4月14日生まれ。岡山県岡山市出身。8歳の時に当時JFLのファジアーノ岡山に憧れて応援するようになり、高校3年生からサッカーメディアの仕事を志すなか、大学在学中の2022年にファジアーノ岡山の取材と撮影を開始。2024年からは同クラブのマッチデープログラムを担当し、サッカーのこだわりを1mm単位で掘り下げるメディア「イチミリ」の運営と編集を務める。(株)ウニベルサーレ所属。