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「飯マズ」の常識が覆る?イングランドで始まったSNS発のスタグル革命

2024.02.14

なぜ、新プロジェクトが続々発表?サッカースタジアムの未来#6

Jリーグ30周年の次のフェーズとして、「スタジアム」は最重要課題の1つ。進捗中の国内の個別プロジェクトを掘り下げると同時に海外事例も紹介し、建設の背景から活用法まで幅広く考察する。

第6回は、スタジアム観戦のお供に欠かせないスタジアムグルメについて。「飯マズ」と揶揄されがちな「サッカーの母国」イングランドのスタグル事情を現地に住む日本人サッカーファン、EFLから見るフットボール氏に教えてもらった。

 筆者はせいぜい両手で余るほどの国しか旅したことがないが、それでも自信を持って言える。イギリスの出身者ほど往々にして自国の料理に誇りを持っていない人たちはそうはいない。だから街中にはいろんな外国料理のレストランが溢れている。味付けが本場と全然違うこともあるが、ある程度の規模であればだいたいどんな街でも日本食のレストランも見かける。

 個人的には別にパイやフィッシュアンドチップスだって決してまずいとは思わないし、むしろ食べ方を間違えなければ大概の場合はおいしい。地元の人だっておいしくないと思っているわけではないだろう。ただ何につけプライドがないから、「イギリスの料理は評判が悪い」という大前提の下に話をしてくる場合が多い。すごく話しやすい。

 そんな国の「スタジアムグルメ」である。というか、「スタジアム食」だ。当然の帰結として、大きな期待をするべきではない。

ビールか、パイか、スープか

 イングランドのスタジアム食を簡潔に表現するなら、「パイント(Pint)、パイ(Pie)、ボブリル(Bovril)」の3ワードでこと足りる。一応若干のメニューの差はスタジアムごとにあるものの、この3つが完備されていない試合会場はプロレベルで見たことがない。

 「パイント」(ヤード・ポンド法で液体に使われる単位/1パイント=約0.5リットル)――これはもちろんビールのことだ。万が一ピッチに投げ込まれても危険がないよう、大体スタジアムだとプラスチックカップで出てくる。注文時には「ビール」とは言わず、銘柄名か単に「パイント」と言って頼むことが多い。

本拠地ロンドンを自虐するブラックユーモアで話題を集めたクリスタルパレス公式Xのアダム・ウォートン加入発表動画。「一番いいやつのパイントを」と頼んでいる

 「パイ」は言わずもがなとして、最後の「ボブリル」は日本人にはやや耳馴染みがないものかもしれない。これはとりわけ冬場に人気のホットスープで、牛肉ペーストで作られた滋養強壮剤のような飲み物だ(種類としてはコンソメスープを飲んでいるような感覚)。「Warming the terraces since 1886」 (1886年から立見席を温めている存在)というキャッチコピーが示す通り、フットボール界の存立当初からファンに親しまれてきた。

ペーパーカップで提供されているボブリル(筆者提供)

 もちろんホームサポーター向けには他にもいろいろ露店が出ていたり、スタジアム内にも趣向を凝らしたメニューがあったりするのだが、基本的にアウェイサポーターが行動できる範囲ではこれらに加えてハンバーガーやポテト、ソフトドリンクくらいしか買えるものがない。理由は簡単。需要がないからである。

 そもそもイングランドでファンがスタジアムで過ごす時間は短い。試合の前も後も、基本的に彼らがいるのは会場近くのパブだ。アウェイサポーターであればそれはより顕著で、私はいつもサポーター仲間と一緒にファン専用のコーチ(長距離バス)で敵地へ遠征しているが、いつも朝早く出発する割に必ず途中どこかのパブで休憩している。スタジアムに着くのは決まってキックオフギリギリ。酷い時は渋滞などのせいで間に合わないことすらある。

媒介としてのフットボール

 目的はたった1つ。少しでも多く、長く、飲酒をするためだ。……

Profile

EFLから見るフットボール

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72