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アカデミーの勢力図が表れたU-17イングランド代表。英国で働いた日本人スカウトが注目する4選手

2023.11.21

U-17W杯から占う日本の未来 #14

コロナ禍を経て2019年以来の開催となるU-17W杯が、11月10日にインドネシアでいよいよ幕を上げた。前回王者ブラジルをはじめとする24カ国が17歳以下の世界一を争うFIFA主催国際大会の最年少カテゴリーは、アンドレス・イニエスタからフィル・フォデンまでのちのワールドクラスが頭角を現してきた若手見本市。AFC U17アジアカップ優勝チームとして森山佳郎監督が招集した全員国内組の“06ジャパン”にとっては、18歳から解禁される国際移籍も見据えてその才能をビッグクラブにまで知らしめる格好の舞台でもある。逸材集団の登竜門への挑戦を見届けながら、彼らが背負う日本の未来を占っていこう。第14回では2017年大会に続く2度目の優勝を狙って決勝トーナメントに進出したイングランド代表から注目株4人を英国で働いた経験を持つ日本人スカウトの田丸雄己氏が紹介する。

 U-17イングランド代表のメンバーには、現在のアカデミーの勢力図が表れている。招集された21人を所属クラブで分けてみると、チェルシーやアーセナルを中心とするロンドン勢とシティとユナイテッドのマンチェスター勢だけで計14人と2/3を占めているからだ。もちろん中には15歳まで他地域のチームに在籍していた選手もいるが、タレントがロンドンかマンチェスターへと終着する国内市場のトレンドが反映されている。そんなホットスポットで主に磨き上げられてきた17歳の原石4人は、(すでに高いが)U-17W杯後も価値が跳ね上がりトップレベルでも輝きを放つ可能性を秘めている。急いで今すぐチェックしよう。

ジョエル・エンダラ(FW/マンチェスター・シティ)

 マンチェスター・シティのユース年代には、各ポジションに世代を代表する逸材がそろっている。特にウイングの人材は、かつてのジェイドン・サンチョを思い起こさせるように毎年強烈。強烈というのはつまり、どんな状況でも相手を抜き去って決定機を演出できるような並外れた個の力を有しているということだ。

 近年の卒業生を振り返ってみても、今季からトップチームに登録されプレシーズンで来日も果たしたオスカー・ボブ、今夏アヤックスに最大1720万ポンドの推定移籍金で引き抜かれたカルロス・ボルジェス、昨夏加入したサウサンプトンで崩しの切り札となりつつあるサミュエル・エドジーなど、確かな才能を常に確保していることがわかる。ペップ・グアルディオラ監督率いるファーストチーム同様、ウインガーはタッチラインいっぱいに開きながらチームがスムーズにパスを回せるよう最大限の幅を与え、ファイナルサードまで前進できればまるで獣が解き放たれたかのように生まれ持ってのドリブルスキルやフィニッシュワークで大暴れする役割を託されているからだ。

 その最新作であるジョエル・エンダラは2006年5月31日生まれ。もともとはマンチェスター近隣のクラブであるポート・ベイル出身で、シティかユナイテッドから零れ落ちて他エリアへ追い出される選手も少なくない激戦区を生き残ってきたエリートだ。

 左ワイドを主戦場とするエンダラが持つ一番の魅力は前への推進力。ドリブルのタッチが大きく見えるが、相手よりも先にボールに触れる俊敏性があるため簡単にボールを失わない。そのピッチ数(脚の回転数)の多さが理由であろう。トップスピードに乗った状態でも体勢調整や方向転換が自由自在で、クネクネ素早く動くこともできるので相手のDFとしても簡単に近づけない。長距離のスピードに加えて初速や加速も優れており、細かいボールタッチがなくとも相手を置き去りにすることができる。右利きではあるがキックのインパクトは左足も強烈で、縦に抜けてもシュートの選択肢を失わずにゴールを脅かせる。

グループステージ最終節ブラジル戦(●1-2)では、得意の縦突破からキックフェイントを挟んだ鋭い切り返しでファウルを誘ったエンダラ(1:08~)。自ら獲得したPKを蹴り込んで前回王者に一矢報いている

 またプレーエリアが広く、中でも外でも存在感を発揮できる。ただし、俗にいう逆足ウイングというわけでもない。外で受けたらカットインするような決まったパターンがあるのではなく、状況に合わせてスタイルを変えられる臨機応変さもエンダラの長所だ。サイドであれば直線的なスピードを生かして突破するドリブラーに、ハーフスペースではそのアジリティとステップワークを駆使して相手のDFラインの視線や注意を集めながら抜け出した味方にラストパスを供給していくチャンスメイカーへと変貌する。場所によって最適なプレーを選ぶことができる戦術的柔軟性の高さは、近年の年代別エリートに見られる傾向だ。早くもグループステージで2ゴールを決めている韋駄天に、決勝トーナメントでも注目したい。……

Profile

田丸 雄己

1994年生まれ。高校卒業後、イギリスに短期留学した後、Jクラブやサッカーコンサルティング会社での勤務を経験。その後、イギリス、ロンドンにあるセントメアリーズ大学に進学。在学中にチェルシーアカデミーでスカウトのインターンを経験し、現在は英二部ストーク・シティとスコットランド一部マザーウェルでスカウトとして活動中。ロンドンエリア、Jリーグのスカウトを担当している。