FEATURE

日本代表の新スタッフ、元セビージャ・アナリストの若林大智に期待すること

2023.09.08

日本代表欧州遠征2023徹底分析#1

カタールW杯でベスト16入りした森保一監督率いる日本代表は、続投が決まった指揮官の下で新チームが始動。「ポゼッションの質を上げる」ことを新たなテーマに掲げ、特に[4-3-3(4-1-4-1)]で臨んだ6月のエルサルバドル(〇6-0)、ペルー(〇4-1)との2連戦では新しいチャレンジへの可能性を感じることができた。9月のドイツ、トルコとの2連戦は、第二次森保体制の最初の分岐点になるだろう。約4カ月後のアジアカップ、そしてその先のW杯予選に向けて、様々な角度から欧州遠征を分析してみたい。

セビージャで2度のEL制覇を経験したアナリストの若林大智氏が、今回の欧州遠征から日本代表のスタッフに名を連ねることになった。そこで当時セビージャに住んでいた指導者仲間で、2度本人にインタビュー取材をしている木村浩嗣氏に、異色の日本人アナリストに期待することを聞いた。

「知り合いの指導者」から「取材対象」へ

 アナリストが何をやっているのか? どうやって分析をしているのか? は基本的には社外秘である。

 フットボリスタ誌の特集で何年か前にウナイ・エメリ監督下のアナリストに会いたいとセビージャの広報に申し込んだ時、「彼らはインタビューを受けない」と断られた。だから、事前にいろいろ調べても出なかったんだと納得した。何とか実現できたのは「こいつなら悪意はない」と信用されたのだろう。モンチに根掘り葉掘りスカウティングのメソッドを聞くとか、試合中のアナリストの会話を横で盗み聞きさせてもらうとか、地元の記者さえ許されない取材でいろいろ多目に見てもらって感謝している。

 だからセビージャ時代の若林大智氏にインタビューをさせてもらった時も知り合いで電話番号も持っていたけど、まず広報を通して直接やり取りしてOKとの許可をもらってから連絡した。

 秘密を漏らしてはいけない立場の人に近づくのはこちらも気を使った。報道の手違いで彼のキャリアに傷をつけてはいけないから。モンチなら最高責任者なんだから発言は本人の責任だけど、彼の場合はそうではない。しゃべり過ぎてはいけないが、しゃべらさせないとこちらも仕事にならない。あのインタビューはそういうせめぎ合いの中で何とか形になったものだ。20年の1回目はこちらのプレスを上手にかわされたけど、21年の2回目は本当に細かいことまで明かしてくれた。

 お互いに少年サッカーの指導者だった時代では知り合いだったけど、セビージャのスタッフになり彼の仕事が私のメシのタネになった時点で「報道者と取材対象者の関係」になったので距離を置いていた。面倒臭いだろうから。それでもELで優勝するたびに報告と喜びのメッセージをくれた。昨季も私が「メンディリバルって良い人でしょ?」と言ったら、「監督は人として最高です!」と返してくれた。

 というわけで、アナリストとしての若林君はあのインタビュー以上のことは知らないわけだけど、今回の日本代表スタッフ入りで期待することを想像も交えて書きたい。

120のタグに込められた価値観。「すり合わせ」の先にある化学反応

 一番期待しているのは「世界トップ基準とのコンセプトのすり合せ」が起きることだ。

 分析とは「物事を分解して成分・要素・側面を明らかにすること」と辞書にも書いてる。チームのプレーを複数の選手の複数のアクションに分解していく過程では、当然、アクションに「タグ付け」の作業が必要になる。タグ付けされるから、後から特定の選手の特定の状況での特定のアクションだけを抽出して見直すことが可能になるわけだ。そのアクションやシチュエーションのタグを作ることもアナリストの仕事で、若林氏はなるべく簡潔にしようとは思っていても「120くらい」あったと言っている。

 この120くらいのタグを共有することがまずは日本の財産になるのではないか。

 インタビュー中に「PTPって日本語で何て言うんでしたっけ?」と聞かれた。Presión Tras Pérdidaとは「ボールロスト後に直ちに行われるプレス」のこと。そのアクションにはPTPがタグが付けられるのだろう。が、これ私の日本語訳で、日本のプロサッカーの現場で何と呼ばれているのかは知らない。

 何度も書いてきたことだが、日本のサッカー用語にはないスペインの用語はたくさんある。代表的なのが「ドリブル」で、相手を抜くアクション(スペイン語でレガテ=regate)と相手不在でボールを運んで行くアクション(コンドゥクシオン=conducción)はまったく違うのに日本語では一緒くたにされている。もちろん、これはメディアレベルの話でプロサッカーの現場ではちゃんと区別されており別々のタグを付けられているのだろうが、それが一般レベルまでは浸透していない。

 同様に、マークを外す動き(デスマルケ)の日本語訳は? 同じデスマルケでも「近づいて来るもの」(デ・アポジョ)と「遠ざかるもの」(デ・ルプトゥーラ)は区別されているが、これらは? シャビ・エルナンデスが良く使う「第三の男」は?……

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。