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「2ステップ」「懐」「正対」「トーステップ」――footballhack流、クバラツヘリアの技術総論

2023.05.27

【ナポリ特集】待ちわびたスクデット奪還の意味#4

2022-23シーズンのセリエAを制したSSCナポリ。第6節以降一貫して首位をキープすると、2月の時点で2位に18ポイントの差をつけ、その後もリードを維持したまま独走。時間の問題だと思われていた優勝決定の瞬間を迎え、世界中のサポーターたちの歓喜が爆発した。ディエゴ・マラドーナ在籍時代以来となる、実に33年ぶり、3度目のリーグタイトル。このイタリア南部のクラブにとって待ちわびたスクデット奪還は、どのような意味を持つのだろうか。

#4では、加入初年度ながら32試合12ゴール13アシスト(第36節時点)の大ブレイクでナポリをけん引したドリブラー、クビチャ・クバラツヘリアの技術をドリブル解説だけで一冊本を書いたfootballhack氏が分析する。

キックフェイントと「2ステップ」の組み合わせ

 今や33年前に同じくセリエA優勝の立役者となったナポリの伝説、ディエゴ・マラドーナとも比較されている“クバラドーナ”ことクビチャ・クバラツヘリア。1年前までは国際的にほぼ無名だったジョージア代表FWに初見で感じたのはある種の”ぎこちなさ”だ。180cm台の身長で手足が長くやや猫背気味にドリブルする姿は、マラドーナよりむしろジネディーヌ・ジダンを彷彿とさせるが、現代のドリブラーとは思えないほどルックダウンして足下でボールを扱っている。画面越しでも違和感を覚えるくらいだから、ピッチで実際に対峙した選手たちは独特のドリブルにいっそう惑わされたに違いない。

 では、このドリブルはどのようにして生み出されているのか。本来、足を踏むタイミングをズラしてボールタッチのタイミングを早めるか、通常タッチするタイミングではない姿勢でボールを触ってDFの予測を外していくのが、ドリブル技術の基本だ。しかしクバラツヘリアの特徴は、長い四肢からは想像できないほどシンプルにステップが細かいことにある。その利点は大きく3つ。「①都度判断を変えられること」、「②都度相手に予測の修正を強いること」、そして「③進行方向を予測させないこと」だ。

 しかしその分、技術的な負荷は高くボールが足下に入りやすいためDFに猶予を与えてしまいがちだが、クバラツヘリアはそれを逆手に取って出し抜く駆け引きの巧みさを持ち合わせている。細かなタッチは決して悪いことではなく、むしろチャンスを生み出せる瞬間であることを示しているのだ。

 その魅力が凝縮されていたのは、セリエA第26節アタランタ戦での決勝弾。60分、カウンターでビクター・オシメーンからパスを受けたクバラツヘリアは、ペナルティエリア左手前でラファエル・トロイとの1対1を迎えた。

 ファーストタッチはシュートが打てる位置に置くと習いがちだが、クバラツヘリアはやはり体の真下にピタッとボールを止めている。そして次のプレーが予想できない体勢から右足アウトサイドで中へ切り返したと思えば、さらに右足インサイドのキックフェイントで揺さぶりをかけた。シュートをブロックすべく体を投げ出して背中を向けてしまったトロイは、さらに左足でキックを繰り出すかのように上半身を振りかぶって軸足となる右足を上げたクバラツヘリアに食らいつこうと反転するが、またしてもフェイク。左に重心が乗った相手をあざ笑うかのように、クバラツヘリアは右足アウトサイドで再び中へと切り込んでいる。

 キックフェイントを多用した一連の駆け引きでクバラツヘリアは2回右に持ち出しているが、そこで使われているのが「2ステップ」という技術だ。切り返しの際は縦から中へと緩急をつけるために大きな1タッチで持ち出したくなるが、実はそれを2回以上に分けた方が相手に効きやすい。図解してみよう。……

Profile

footballhack

社会人サッカーと独自の観戦術を掛け合わせて、グラスルーツレベルの選手や指導者に向けて技術論や戦術論を発信しているブログ「footballhack.jp」の管理人。自著に『サッカー ドリブル 懐理論』『4-4-2 ゾーンディフェンス セオリー編』『4-4-2 ゾーンディフェンス トレーニング編』『8人制サッカーの戦術』がある。すべてKindle版で配信中。