“問題を抱えながらプレーする場合、 一番の敵は自分だ。でもそれは受け入れなければいけない ”
Jordan HENDERSON
ジョーダン・ヘンダーソン
MF14|リバプール
1990.6.17(28歳) ENGLAND
文 寺沢 薫
彼が左足に抱える問題が、初めて世に出たのは2015年のことだった。足底筋膜炎(そくていきんまくえん)。聞き慣れない症例だが、これがジョーダン・ヘンダーソンの“持病”だ。足底筋膜とは足の裏、かかとの骨から足先にかけて伸びる腱組織のことで、これが炎症を起こすと、足を地面に踏み込んだ際、かかとに突き刺すような痛みが走る。ヘンダーソンの場合、酷かった時期には「足を地面につけられない」「ベッドで寝ているだけでもかかとが痛い」状態だったという。
足底筋膜炎は陸上の長距離ランナーや、野球のキャッチャー、バレエダンサーなどによく見られる負傷だが、最も多いとされる原因はオーバーユース、つまり“勤続疲労”だ。治療において推奨されるのは「局所の安静」で、厄介なことに明確に完治へと導く治療法がない。ヘンダーソンとリバプールのメディカルスタッフはキャリア晩年に同じ問題を抱えていたというクラブOBのジェイミー・キャラガーに相談したり、アメリカに渡ってオーナーが所有するMLBボストン・レッドソックスの専門医の診断を受けたり、英国王立ロイヤル・バレエ団の医師に意見を求めたりと手を尽くしたが、なかなか即効性のある治療法は見つからなかった。
最終的には「ステロイドホルモンの注射を続け、足底筋の組織が断裂するのを待って痛みを軽減させる」方法を取ることになったが、腱の断裂後はすぐに復帰できるアスリートもいれば、数カ月も離脱を強いられる者もいるという不確定な方法で、それで安心なのかもわからなかった。結局、数カ月の注射で腱は断裂し、「足を地面につけられない」ほどの最悪の状態からは脱してプレーできる足に戻ったものの、その後もヘンダーソンは慢性的なかかとの痛みと付き合いながら、「ちょっとでも違和感があると再発を疑ってしまう」という恐怖心を胸の奥に抱えながら、今も現役生活を続けている。

「問題を抱えながらプレーする場合、一番の敵は自分だ。でもそれは受け入れなければいけない」「痛みが戻る時はくるからどうしようもない。ピッチでは試合にしっかり集中して、何かあっても試合後に対処するようにしないといけない」
そう語るヘンダーソンは、痛みの存在を受け入れた上で、前を向き、ベストを尽くしている。彼はあまりこのケガについて多くを語ってこなかったのでこれは推測になるが、日々のケアはもちろん、おそらく腕の振り方や股関節の稼働、肩甲骨の内転など自分の特徴や癖を理解し、体の使い方や走り方をトータルで改善することによって痛みをやわらげる努力と工夫を続けているはずだ。
またスプリントが多い8番=ボックス・トゥ・ボックスから6番=アンカーへのコンバートも、(もちろんクロップが適性を感じたからでもあるが)足に余分な負荷をかけないための選択という面もあったかもしれない。いずれにせよ、彼は運命を嘆くのではなく、受け入れた上でなお生き残る道を模索し、不屈の意志でプレーを続けている。だからこそ、出場機会こそ制限されているが今もトップレベルだし、そのひたむきさとプロ意識がリバプールのキャプテンとしての“信頼感”に繋がっているのだ。

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