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“イタリア版ペップ”デ・ゼルビ。サッスオーロという試金石の舞台

2018.10.11


国内外のエキスパートたちの間では常に高い評価を受けてきた“イタリア版ペップ”が、ついに自身の力を証明できるチームを得た。サッスオーロ+デ・ゼルビの新プロジェクトは、今季のセリエAの大きな注目点である。


Roberto DE ZERBI
ロベルト・デ・ゼルビ
サッスオーロ 監督
1979.6.6(39歳) ITALY


 監督ロベルト・デ・ゼルビの評判を初めて聞いたのは、セリエCのフォッジャを指揮していた15-16シーズンのこと。当時ミランのコーチだったレナート・バルディが、「セリエCで1人だけグアルディオラみたいなサッカーをやっている監督がいる」と教えてくれたのが彼だった。

 システムは[4-3-3]。後方からワンタッチ、ツータッチのパスを繋いで攻撃を組み立て、敵2ライン間にボールが入ったところから一気にスピードアップしてフィニッシュに持ち込む。その間に最終ラインを高く押し上げ、ボールを失ったらアグレッシブなゲーゲンプレッシング。テクニックのレベルが高くないこともあり、結果重視の堅守速攻が幅を利かす3部リーグにあって、フォッジャの攻撃的なモダンフットボールは異彩を放っていた。

 しかし、そこからの2シーズンは茨の道。16-17はプレシーズン期間中に補強をめぐる意見の相違からフォッジャを離れ、開幕たった2試合でバッラルディーニを解任したパレルモに抜擢される形で、一気にセリエAデビューを果たした。しかし途中就任という難易度の高い状況もあってチームを機能させることができず、わずか12試合で解任の憂き目に遭う。続く17-18も、夏にスペインのラス・パルマスと一度は合意しながらドタキャンを喰らい、10月になって9連敗でセリエA最下位を独走するベネベントのオファーを受けたものの、29試合で勝ち点21(6勝3分20敗)を挙げるに留まり、最下位から脱出することなく降格となった。

 だが、ピッチ上の結果がポジティブとは言えないにもかかわらず、監督としての手腕に対する評価が落ちることはなかった。結果レベルで大きな困難に陥ってなお、後方からのビルドアップでチーム全体を押し上げポゼッションによるゲーム支配を目指すポジショナルな攻撃サッカーを妥協なく追求し続けて、終盤戦にはユベントス相手に善戦しミラン、ジェノアを下すなど、説得力ある試合を積み重ねたからだ。最下位での降格にもかかわらず、最も興味深い若手監督の1人、という評価は昨シーズンで揺るぎないものとなった。

 ディ・フランチェスコが去った昨シーズン、後任選びに失敗して不本意な1年を送ったサッスオーロが白羽の矢を立てたのも、ある意味では自然なことだった。プレシーズンキャンプからきちんとチームを作り上げる時間を手に入れたのは、セリエAではこれが初めて。その意味で本人にとっても真価が問われるキャリアで最も重要な1年となるだろう。

 新加入のケビン・プリンス・ボアテンクは、フランクフルトとの契約を解消して3年ぶりにイタリアに戻って来た理由についてこう語る。

「彼のフォッジャを見た後直接知り合った時に、いつか一緒に仕事をしたいと言ったんだ。彼は天才的な監督だ。サッスオーロを選んだのもそれが理由だ」

 ゲームモデルとプレー原則を柱にチームを作り上げるメソッドも含めて、「イタリアで最もグアルディオラ度の高い監督」であることは間違いない。ボアテンクやベラルディをどう操ってどんなチームを築き上げるのか、期待は高まる。


Photo: Getty Images

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サッスオーロロベルト・デ・ゼルビ

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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