ハリー・ケインはなぜバロンドールに輝いたのか。トータルフットボールの進化形「ユニバーサルフットボール」の体現者
新・戦術リストランテ VOL.141
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第141回は、2026年のバロンドールに輝いたハリー・ケインに注目。公式戦61ゴールという圧倒的な得点力だけでなく、守備への貢献、ビルドアップへの参加、そして異次元のキック精度まで備えるストライカーは、なぜこれほど多彩な役割をこなせるのか。名将バレリー・ロバノフスキーが予言した「ユニバーサルフットボール」という概念を手がかりに、ケインの万能性と現代サッカーの進化を読み解く。
個人の圧倒的な実績とチームの戦績。ケインのバロンドール受賞は妥当だったのか
ブンデスリーガ第8節、バイエルンvsドルトムントの試合前にハリー・ケインのバロンドール受賞への祝福が行われました。
イングランドの選手が受賞したのは2001年のマイケル・オーウェン以来。バイエルン所属の受賞者だと1981年のカールハインツ・ルンメニゲまでさかのぼります。トッテナム時代のケインは「無冠の帝王」と呼ばれていましたが、バイエルンへ移籍してタイトルも獲り、25-26シーズンは公式戦61ゴール。イングランド代表も合わせると73ゴールと圧巻の成績でした。
W杯、CLの国際タイトルなしでの受賞でしたが、過去にもそういう例はあります。2026年W杯での3位は、優勝した1966年に次ぐ好成績。CLも準決勝で敗れましたがバイエルンは欧州ベストチームの1つでした。
ケインの受賞はちょっと意外にも思いました。ただ、W杯優勝のスペインから選ぶとすればロドリだと思いますが、負傷もあってシーズン通しての活躍はしていない。CLの年間MVPだったクビチャ・クバラツヘリアはW杯に出ていない。そうなると個人としての成績とチーム(バイエルンとイングランド代表)の戦績からしてケインの受賞は妥当な気がします。
ドルトムントとのデア・クラシケルは2-2のドロー。ケインは57分に得たPKを珍しくバーに当てて外し、75分の決定機もシュートはポスト。どちらかを決めていれば勝てていたのでバロンドールの喜びに水を差す感じになってしまいましたが、プレーぶりは相変わらずの高水準ではありました。
CFでありながら万能。ケインが体現する「ユニバーサルフットボール」
ドルトムント戦8分、ケインはベリンガムのクロスボールをカットしています。これもバロンドール受賞理由の一端ですね。前回受賞のウスマン・デンベレほど目立ちませんが、CFでありながら守備への貢献もしっかりある。ケインが自陣深くで相手の攻撃を防ぐ場面は珍しくないんです。
もちろん評価の主な理由は攻撃力であり、特に得点力なのでしょうけど、深く引いてからのパスや前線で体を張ってキープする、自陣まで引いて守備をするといった万能性も大きな受賞理由かと思います。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
