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解説者の「おそらく番狂わせは起きない」も覆した“カップセット”。フリートウッド・タウンが思い出させるフットボールの非論理性と社会的意義

2026.10.30

10月27日、世界中にある英4部クラブの名前が轟き渡った。カラバオカップ4回戦でプレミアリーグ王者のアーセナルをPK戦の末に下したフリートウッド・タウンのことだ。その試合で解説を務めた秋吉圭(EFLから見るフットボール)氏が、自身の「おそらく番狂わせは起きない」という予想を覆したカップセットを振り返るとともに、フットボールの非論理性と社会的意義を綴る。

 私が試合中継で解説を務める日、1つのルーティーンにしていることがある。完全プライベートのInstagramアカウントでその中継予定をストーリーに上げること。もちろんパブリック向けにはX(旧Twitter)でより丁寧にそのことを告知してはいるのだが、それはそれとして友人たち向けにも、一種の生存報告のようなものとしてお知らせするようにしている。優しい人たちがよく反応をくれるので、うれしい。

 10月27日の日中もそうだった。『DAZN』でフリートウッドとアーセナルの解説をする。いつものようにいくつかの反応が来たが、その中にちょっと意外な人物からの返信があった。日本語など読めようはずもないバーミンガムつながりの人々からもたまに反応があるのだが(私が解説者になったことはみな知っているので、おそらくニュアンスでわかってくれている)、その中でもそういった返信をくれるイメージのないちょっと武闘派の“Waz”(仮称)という男性からのものだった。

 「That’s who my son plays for. Unfortunately he’s not involved tonight(そのチーム、息子がプレーしてるとこだ。今日は試合に出ないんだけど……)」

 地球は丸い。世界は狭い。Wazと同じ名字の選手はフリートウッドにもアーセナルにもいなかったが、父親と子の名字が違うなどという話はイギリスでは別に珍しくもない。誰なのか彼に聞いてみると、フリートウッド第3GKのOliver Belliziaという選手だと教えてくれて、彼は前日にシェフィールド・ユナイテッドとのU-21の試合に出場したため今日のメンバーには入らないのだと教えてくれた。もし機会があったら彼のことを日本の人にも紹介してくれと言われたので、もし映ったら言及するということでいろんなBellizia情報を教えてもらった。そして名前の正しい発音についても聞き、その上で返礼として「オリバー・ベリツィア」というカタカナ表記を教えてあげた(タトゥーなどで使う人が多いので、結構感謝される)。結局あのような展開になったため言及はできなかったが、試合翌日にはWazから「そんなことよりすごい試合だったじゃないか!」というメッセージが来た。

 試合前日の夜の、そんな異様な出来事。こんな告白に何の意味もないことは百も承知の上であえて書くが、私の中で何かが起こる気がし始めた。沸々とした胸騒ぎを抑えて、早朝の試合に向けた仮眠に入ったのを覚えている。

前オーナーは服役中で外れ値も外れ値、過去最大級の“カップセット”

 「Don’t know. Pick my spot and put it in. Top corner. And then just run like f*ck!(覚えてませんよ。どこに蹴るか決めて、そこに蹴った。コーナーの隅。そんでもって、あとはf*ckに走りましたよ!)」

 とにかくほとばしる興奮を抑えきれないといった様子で、インタビューに呼ばれた19歳のコナー・ホーヒーが言葉を続ける。英語ネイティブですら字幕なしには聞き取れないほどの激しいベルファスト訛りもありつつ、明確に発された放送禁止用語に放送局『Sky Sports』から度重なるお詫びが挟み込まれる。このFワードに「攻撃された」と感じた視聴者など文字通り1人としていなかっただろうし、誰もがホーヒーがこれほどまでに落ち着かない様子を理解している。彼は歴史に残る、最後のPKを決めてみせた直後だったのだ。

 フリートウッドが勝った。アーセナルに勝った。4部18位のチームが、プレミアリーグで2位のチームに。昨季4部15位のチームが、プレミアリーグの王者に輝いたチームに。人口2万6232人の小さな北部の街が、ホームスタジアム収容人数6万704人のロンドンの大巨人に。

 昨季のカラバオカップでは、2回戦でグリムズビーがあのマンチェスター・ユナイテッドを下した(私は中継内で当該試合のスコアを1-1と言ってしまったが、もちろん2-2の間違いだった。あの日一番の反省点だ)。あの時も4部チームのホームゲームで、雨が降っていて、GKが当たっていて、PK戦の末に驚くべき瞬間が訪れた。

 今季、そんな魔法のような場面の舞台は、北東部のグリムズビーから北西部のフリートウッドへ。そして2回戦から4回戦へ。W杯明けの不規則なコンディション調整、新たな代表戦スケジュール、そして20クラブ中9クラブが欧州大会に出場する関係でタイトル獲得へのモチベーションが従前より高いプレミア残り11クラブといった複合的な要素が絡み合い、ここまでプレミアリーグ勢がディビジョンを違える相手に敗退させられた例が1つもなかった今季のカラバオカップにおいて、その今季はおろか過去最大級の“カップセット”(CupとUpsetを掛け合わせた造語で、カップ戦での番狂わせの際に用いられる)が起きたことになる。

 熱意ある『DAZN』のスタッフの方々にお声がけいただき、私は試合前の段階からこのフリートウッド・タウンというクラブについて日本向けに啓蒙を行う機会に恵まれた。もちろん、ただシンプルに「4部の下位クラブがプレミアリーグ王者を破った」と書くだけでも、その凄さはある程度伝わるに違いない。しかし形式的な「4部」のレッテルだけで伝えきれないものが、EFLリーグ2に所属する24クラブそれぞれにある。フリートウッドという極めてユニークなフットボールクラブとしての成り立ちを持つクラブであればなおさらだ。

……

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Profile

秋吉 圭(EFLから見るフットボール)

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72

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