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UEFA PRO同期のバルディに聞くセスク論(前編):「どう勝つかではなく、どう負けるか」。コモと切り拓く「グアルディオラの先」

2026.10.21

【特集】セリエAを革新するコモのビジョン#5

セスク・ファブレガス監督がピッチ上に植えつけるプレー哲学と、コモ湖を背景に街をプロデュースする独自のブランド戦略。2024-25シーズンのセリエA昇格からわずか2年でCLに初参戦しているコモ1907は今、欧州サッカーで最もユニークな存在だ。イタリアのプロビンチャーレだったクラブがなぜ、この短期間で異彩を放ちつつあるのか。その答えは、目の前の試合結果だけを追うのではなく、先を見据えた未来から逆算してチームを作る「ビジョン」にある。人材獲得と育成、移籍戦略、トップチームの戦術――それぞれの取り組みは別々に見えて、実は一つの思想によってつながっている。その革新のDNAを読み解く。

第5&6回は、UEFA PROライセンス講習でセスク・ファブレガスと同期だったレナート・バルディの視点から、その監督哲学とゲームモデルを読み解く。バルディが注目するのは、ジョセップ・グアルディオラの模倣にとどまらないセスク独自のサッカー観だ。アーセン・ベンゲルらから学んだマネジャーとしての視点、バルセロナで培った基盤に多様なキャリアを通じて磨かれたゲーム理解、そして選手の個性を生かす組織づくり。クラブ全体を貫くビジョンは、ピッチ上の戦術にも一貫して表れている。

ベンゲルから受け継いだマネージャーの思想

――レナート(・バルディ)は、一昨年のUEFA PRO監督ライセンスコースでセスク(・ファブレガス)と同期でしたよね。20数人の監督が通算で240時間にわたって講義や実習をともにする中で、様々な角度から彼を深く知る機会があったと思います。その経験も含めて、レナートの視点から見たセスク・ファブレガスという監督について話を聞ければと思っています。彼はセリエAにおいて、多くの点で革命的な存在ですよね。

 「はい。イタリアサッカーの世界に新しい風を吹き込んだことは間違いありません。その新しさは世論を、そしておそらく同業者たちの意見を二分しています。彼の哲学は強く明確で、他とはっきりと区別できるアイデンティティを持っているからです。若い世代、特に(ジョセップ・)グアルディオラの影響を受けた人々は、彼をそのコピーではなく進化形だと見ており、彼を目指すべき1つのモデルだと考えています。一方、もう少し伝統的でプラグマティックなサッカーを信条にしている人々は、彼のことを変革者ぶっている、“フェノーメノ”(怪物)を気取っている、と見ているところがある」

――でも彼は実際“フェノーメノ”ですよね。

 「ええ。私にとってはまさにそうです。UEFA PROのコースを履修している間、何度も昼食や夕食をともにして、サッカーについて、そしてマネジメントについても語り合いました。セスクはいつも、監督というのは自分にとって、360度にわたる生き方そのものなのだと言っていました。戦術だけの問題でもなければ、ピッチ上だけで終わるものでもない。むしろピッチの外にこそこの仕事の本質がある。

 このビジョンは、彼にとって師の1人であるアーセン・ベンゲルから受け継いだものだと思います。ベンゲルは、いわばマネージャー型監督のシンボルです。同じクラブで長年仕事をし、クラブの哲学を作り上げ、明確なアイデンティティを与えた。そして何より、ピッチ外のマネージメントや組織のオーガナイゼーションにも深く関わっていました。

 セスクもコモで同じことをしています。クラブの組織を作り上げたのです。もちろん、それが可能だったのは、彼に最大限の信頼と全面的な裁量を与えた(ミルワン・スワルソ)会長の存在があったからこそです。クラブの株式まで与えていますからね。セスクにはクラブの組織から施設、ロジスティックスまで、あらゆるものを自分のアイディアにしたがって設計する機会が与えられました。それだけの権限を持っているからこそ、ピッチ上からピッチ外まで、コモというクラブ全体に一本の筋が通っているのです。すべてが同じ1つの哲学に基づく明確なビジョンの下に組織され、運営されている。

 そして、彼の傍らには、私がこれまで知り会ったサッカー関係者の中でも、能力という点でも、何より文化的な素養や価値観という点でも、最も優秀な人物の1人だと思っているチャーリー(カルラルベルト=カルロの英語愛称)・ルディというスポーツダイレクター(SD)がいます。スワルソ会長、セスク、ルディという3人の組み合わせが、このお伽話のような成功を可能にしたのだと思います」

異なる流派から学び、自分の哲学を作る。セスク独自のゲーム理解

――実際、コモの成功は素晴らしいお伽話です。7年前にはセリエDにいたチームが、今ではチャンピオンズリーグを戦っているのですから。

 「これは私から見れば、例えばレスター・シティがプレミアリーグで優勝したのと同じくらいの、まさにサッカーの歴史に残る偉業です。セスクに話を戻すと、彼は監督という仕事について、ベンゲル型のマネージャーという考え方を自分の中に持っていると思います。ただ、サッカーそのものに関して言えば、彼はバルセロナで育った時に身に着けた考え方を強く受け継いでいると思います。特に、サッカーというゲームをどう捉え、どう理解するか、そしてプレーヤーはどうあるべきか、という点についてです。

 先日、コベルチャーノのマッチアナリスト講座で話題になったのが、現代サッカーではフィジカル能力やインテンシティが重視され、誰もがそうしたパラメータや数値を追い求めている。それなのになぜスペインは、それほど高い運動能力も、優れた体格も持っているわけではない選手たちで、あらゆるタイトルを勝ち取ることができたのか、という話です。

 私は、スペインが違いを生みだしているのは、ゲームの理解、いわゆるフットボール・インテリジェンスだと思っています。それはスペインサッカーのメソドロジーによって、育成年代の最初の段階からトップチームに至るまで、一貫して培われ、ゲームを深く理解することを可能にしています。そしてセスクはその文化を象徴する偉大な存在でした。選手として歩んだキャリアにおいても、勝ち取ったタイトルにおいても、そしてその中で彼が担っていた役割においてもです。彼はすでに20年前からモダンなMFだったのです」

――アンカーから偽9番までやっていましたからね。

 「偽9番としてプレーし、アシストやゴールを決め、ゲームを組み立て、前線に侵入し、プレッシングに飛び出し、ボールを奪う。あらゆる機能をこなすことができるMFでした。そしてそれこそが、現代サッカーにおいて誰もが求める選手像です」

――ゲームの理解、と言う時に、ゲームを理解するやり方、解釈の仕方は必ずしも1つとは限らないと思うのですが。いくつか異なる考え方や流派がありますよね。

 「はい。様々な視点や解釈が存在すると思います。それぞれ焦点を当てるところ、強調するところ、優先するところが違う。というのも、サッカーというゲームは多くの側面から成り立っており、それぞれの流派が異なるやり方で自分たちの歴史と成功を築いてきたからです。

 イタリアでは、主として非保持局面、つまり守備に関わる側面に焦点が当てられています。ドイツではインテンシティ、ゲーゲンプレッシング、縦のスピードに根ざして。スペインではボールと地域の支配を通して。フランスは個人のクオリティに焦点を当てて。クレールフォンテーヌのアカデミーでは、それぞれのポジションに明確なモデルを持っています。フランスで最も一般的な[4-2-3-1]には、それぞれのポジションに非常に明確な特徴を持った選手が配されます。イングランドでは、伝統的にロングボールとセカンドボール、闘争心と献身性に根ざしたサッカーが育まれていました。

 そして、それらが最も優れた形で表現されるようになったのは、グローバル化が進み、様々なリーグの間で監督たちが行き来するようになってからだと思います。その結果、現代サッカーはあらゆる面で混交と改善が進んできた。その中で、ゲームの理解というものも、どの側面に焦点を当てるかによってやり方が違ってきます。サッカーというゲームはあくまで1つですが、それぞれの国や流派が、それぞれのやり方でその中の特定の側面にスポットライトを当ててきたということです」

「他クラブなら自分は解任されていた」。監督とSDが共有すべきビジョン

――そういう意味では、イングランドやフランス、イタリアでもプレーしてきたセスクのゲーム理解はスペインだけのものではないのかもしれませんね。

 「セスクは、彼自身のキャリアの中で出会ってきた様々な解釈や理解の仕方を、彼なりのやり方で混交し、改善して、自分自身の哲学とサッカー観、ゲームの理解を作り上げたのだと思います。つまり、誰かをコピーしたり猿真似したりしたわけではない。バルセロナのマシアも、ベンゲルも、グアルディオラも、(ジョゼ・)モウリーニョも、(アントニオ・)コンテも、(マウリツィオ・)サッリや(レオナルド・)ジャルディンも、彼にとっては学ぶべき教材であり、そこから自分に合ったものを取り込み組み合わせることで、サッカーに対する彼なりの理解と解釈が確立され、私たちが今コモで見ているようなサッカーが生まれたのです。

 そしてもう1つ重要なのは、コモは、セスクが頭に描いているサッカーを実践するために適切な選手を選ぶのに成功しているという点です。彼はこう話してくれたことがあります。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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