旗手怜央がバットマン映画に出演するバーンリー加入発表動画はなぜ著作権侵害にならない?日本のサッカーファンも知っておくべき「パロディ法」という英国の常識
現地時間9月1日、バーンリーはセルティックから旗手怜央を獲得したことを発表した。その初報にSNSが大いに賑わったのは、単に夏の移籍市場最終日だったというタイミングだけが理由ではない。クラブが加入発表動画として、旗手に『バットマン』が原作のヒーロー映画『ダークナイト ライジング』のワンシーンを演じさせるパロディに注目が集まったからだ。オリジナル映像も大胆に使用している投稿には、著作権侵害を疑う声も日本のサッカーファンから挙がっていたが、その懸念を解消する「パロディ法」とは?プロスポーツ団体での広報経験を持ち、現在は解説者としても活躍する秋吉圭(EFLから見るフットボール)氏が解説する。
最近行った新宿駅の改札外に映画『オデュッセイア』の一面広告が掲出されていた。日本では9月11日に全国公開で、あの『オッペンハイマー』(2024年3月日本公開)に続くクリストファー・ノーラン監督の意欲作だという。
私は映画にはあまり明るくないので今のところ映画館に足を運ぶ予定はないが、今年7月にアメリカで公開されてからたった1カ月の段階で、早くも過去のノーラン作品でトップの全世界興行収入を記録したというニュースを見た。これまでの最高記録が2012年7月公開『ダークナイト ライジング』の10億8000万ドルで、それが公開1カ月で11億ドルを超えたというのだから、日本でも歴史的ヒットとなることは請け合いである。
その前祝いとでも受け取ればいいのだろうか。日本での先行公開が開始された9月4日の2日前、なぜか遠く離れたイギリスの地からも、「ノーラン映画」の大プロモーションとなる52秒の映像が日本に向かって突然お届けされた。
A hero can be anyone 🇯🇵 pic.twitter.com/9VhrQg4utA
— Burnley FC (@BurnleyOfficial) September 1, 2026
描かれているのは「前記録保持者」の『ダークナイト ライジング』のラストシーンだ。イタリア・フィレンツェのカフェで休暇を過ごしている執事アルフレッドの前に、死んだと思われていたブルース・ウェイン(バットマン)が幸せそうな姿で現れる。この動画の配役は元ネタとは少々異なり、クリスチャン・ベールではなく、バットマン役には日本の旗手怜央が抜擢されている。その頷く演技には若干のぎこちなさもあるが、(おそらく)こういった作品での初主演であることを思えば許容範囲だろう。
もちろんこのSNS投稿の発信元は、配給会社のワーナー・ブラザーズではない。夏の移籍期間最終日、ヒーローが最後にやってくる。強いメッセージのこもったバーンリーFCによる旗手の加入発表動画である。
“総本山”バーンリーの「加入発表パロディ動画」史
ご存知の方もそれなりにいるとは思うが、バーンリーは「加入発表パロディ動画」の総本山とも言うべきチームだ。
Announcing… 🤖@petercrouch pic.twitter.com/AsqauruKHp
— Burnley FC (@BurnleyOfficial) January 31, 2019
— Burnley FC (@BurnleyOfficial) January 31, 2022
2019年1月のピーター・クラウチ、2022年1月のワウト・ベフホルストといった断片的なヒットがその源流に位置づけられる中で、クラブ内部で明確に移籍発表に力を入れる方針が定まったのは2022年7月、サミュエル・バスティアンの獲得をWWEのパロディで発表した時だったという。2023年の『ESPN』によるインタビューで、当時ソーシャルメディアマネージャーを務めていたレベッカ・スタッブズは「WWEが大バズりして、自分たちで高いハードルを設定してしまったので、計画的にやるようになりました。今では誰にでも使えるようなネタをいくつかストックするようにしています」と語っている。
Who's next? 💥 pic.twitter.com/iKunwS8tJI
— Burnley FC (@BurnleyOfficial) July 5, 2022
バンサン・コンパニ体制の初年度、結果的にチャンピオンシップを圧倒的な強さで制することになるピッチ上での成功より先に、バーンリーは「移籍発表の王者」としての地位を固めていった。その夏だけで『ストレンジャー・シングス』、『ミニオンズ』、『ザ・シンプソンズ』、『フレンズ』、『フォルティ・タワーズ』、そして超常現象ドキュメンタリー『モスト・ホーンテッド』。翌年1月の『シュレック』を模したライル・フォスターの加入発表には、ユニバーサル・ピクチャーズの公式アカウントが「W announcement(最高の発表)」と返信した。
振れ幅ももちろんあり、2025年7月、カイル・ウォーカーはライオネル・リッチーの曲に乗せて寸劇を演じ、『ガーディアン』のマイクル・バトラー記者に「ウォーカーの演技はひどく、コンセプトも奇妙だ。これは違う」と切り捨てられてしまった。
Hello, is this the reveal you’re looking for? ☎️ pic.twitter.com/mOWS55CEBj
— Burnley FC (@BurnleyOfficial) July 5, 2025
偶然にも同月、バーンリーはプレミアリーグのクラブとして初めてX(旧Twitter)と正式な商業パートナーシップを結んでおり、X UKのマネージングダイレクターはクラブの「バイラルなコンテンツを作る評判」が決め手の1つだったと『The Athletic』の取材に語っている。賛否両論のドキュメンタリー制作などにもつながったその提携の是非はさておくとして、失敗を恐れずにマーケティング面への挑戦を続けてきた彼らならではの契約であることは間違いない。
失踪児童発見にも貢献。クラブが加入発表に注力する理由
バーンリーだけではなく、今や加入発表の動画は各クラブのソーシャルメディアチームにとっての腕の見せどころとなって久しい。このトレンドがイギリスで論じられ出した時期は2017年の夏頃、10年近く前である(ヘスス・ナバスが誘拐されるセビージャの獲得発表動画などがきっかけ)。
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Profile
秋吉 圭(EFLから見るフットボール)
1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72
