原口元気らが加わった理由――ベールスホット日本人経営陣が描く「次なるシント=トロイデン」への挑戦
原口元気、ポープ・ウィリアム、倍井謙が語った「This is life」という異文化への挑戦。その舞台裏には、ピッチ外で同じテーマに向き合う日本人経営陣の存在がある。
日本企業による買収から始まったベールスホット再建。目指すのは、日本人選手を集めるだけのクラブではなく、アントワープという街と共存しながら成長し、欧州で生き残るクラブモデルだ。
大野祐介代表取締役と後藤啓介チーフストラテジーオフィサー、2人の日本人キーマンが明かす、欧州クラブ経営への挑戦。
なぜベルギーだったのか――日本企業がベールスホットを選んだ理由
――今日は日本企業が経営権を取得したことで話題を呼ぶベールスホットで、経営の鍵を握るお二人、後藤さんと大野さんにお話を伺います。まずは役職やタスク、個人のキャリアを簡単に教えてください。
後藤「私はチーフストラテジーオフィサー(CSO)、という肩書きでやっています。本国(ベルギー)での主なタスクは大野が責任者を務めているので、私はオーナー企業とチームの橋渡しであったり、大野のサポートであったり、あるいはビジネス開発やベルギー以外でのマーケティングセールスを担当しています。
これまでのキャリアは、大学卒業してから昨年まで、広告会社にいました。東京オリンピックの組織委員会に出向するなど、スポーツマーケティングや大会運営に携わってきました。その後、金宝堂ホールディングスがベールスホットの経営権を取得し、日本人で経営に関われる人を探している、と声をかけていただき今に至ります」
大野「私の方はベールスホットの経営を任せたいということで、任命をいただきまして、現地での肩書きはクラブのプレジデントです。日本的に言うと、代表取締役のようなポジションになると思います。このクラブに携わるきっかけですが、私はこれまでサッカーのエージェントとして活動してきましたが、あるつながりから金宝堂ホールディングスと話す機会があり、ヨーロッパのサッカークラブ経営に興味がある、と。私のネットワークで協力できることがあるのでは、ということで話が始まり、それが2024年の秋ぐらいです。
それからすぐに動きたい、ということでプロジェクトがキックオフして、ヨーロッパにも様々な国のリーグがある中で、私はベルギーが良いのではないかと提案しました。基本的にベルギーはクラブが株式会社なので、経営権を取得しやすく、かつすでに外資が相当参入しているので、外国企業がオーナーになることへの拒否反応が少ないです。また、シント=トロイデンの活躍でもわかる通り、外国人枠がないので、日本人選手を多く連れてくるという、日本企業が目指す方向性へ動きやすい。そうした様々な要因から、ベルギーリーグが面白いのではないか、と。ヨーロッパはいろいろなリーグやクラブがありますが、かなり価値も高騰しているので、自分たちで育てていくクラブから始めるのが面白いのではないか、予算感や希望を考慮しつつ、ベルギーのクラブをリサーチしました。2025年の春先には何チームか候補が出て、そこから絞り込んで、ベールスホットというクラブが挙がり、9月にはクラブ買収の契約を締結したという流れです」
――すごいスピード感ですね。
大野「そうですね。ベールスホット自体は、それまでサウジアラビア資本で8年くらいやっていました。オーナーはヨーロッパに2、3チームを所有していたのですが、いずれもうまく経営できていなくて、まずはイングランドのチームを手放し、ベールスホットも手放したい、というところで我々との話し合いが進みました。かつ24-25シーズンは1部の最下位に低迷し、通常であれば1月の移籍ウィンドウで戦力を確保し、降格を免れようと動くのが普通ですが、サウジアラビア側はおそらくあまり力を入れるつもりがなかったと思います。テコ入れもせず、勝ち点差がどんどん広がり、2~3月の時点ではもう残留は厳しいと見えて、『手放したい』と。こちらとしても、1部の時に買うよりも、2部に降格した方がクラブのバリューが下がるので、金額的に折り合いがつきやすくなり、交渉が進んでいきました」

――金宝堂がクラブ買収を望んだ理由と、それによってやりたいことは何ですか?
大野「当時から今に至るまで、私が聞いていることですが、まず大前提として、事業として成り立つこと。その上で、葬祭事業をメインとする企業として、『生きる』というテーマを大切にしたいという思いがあります。スポーツには躍動感があり、生命力に溢れているという特性があります。そうした場に企業として関わることで、今までにないイメージを積み上げ、普段は葬儀と接点のない方にも会社を知っていただける。そうした狙いから、スポーツに協賛し、あるいは自ら携わっていくという方針がある、ということでした。実際に現在も独立リーグの香川オリーブガイナーズを保有し、サッカーチームや野球チームへの協賛も行っています」
――ではなぜ、今回はヨーロッパのクラブだったんですか?
大野「オーナーがサッカーに興味があって、ヨーロッパサッカーのファンでもあります。その上で、大前提となる事業収益の面でも、ヨーロッパであれば国内と比して高額な移籍金という収益機会があります。かつヨーロッパサッカーなら、全国区でのプロモーションが展開できます。金宝堂ホールディングスは千葉発祥の会社ですが、事業は全国に展開しているので、ヨーロッパのクラブなら地域を限定せず全国にPRできる、と。将来の日本代表になるような選手が自分たちのクラブでゴールを決め、それがニュースとして報じられれば、金宝堂ホールディングスが展開するサービスのブランド名やロゴ、例えば中核企業である金宝堂の屋号である家族葬儀場『小さな森の家』が全国に届く。そこにメリットを感じた、というところだと私は理解しています」
「1年で昇格」より大事なもの。歴史あるクラブを再建する覚悟
――昨季のベールスホットは惜しくも1部昇格を逃し、今季は再挑戦になりますが、クラブの短期的、長期的なビジョンについてどう考えていますか?
大野「もちろん、1年で1部に上がることが目標ではありましたけど、昨季は経営に参画できたのが9月後半だったので、その時点で夏の移籍ウィンドウは終わっていました。オーナーとして影響力を及ぼすまで、その時点では至らなかったです。当時、クラブにいたベルギー側の現地スタッフたちは、今後どういう資金の援助があって、どう選手を獲得していくのか、その方向性が見えにくい中で、何があってもいいようにできる範囲の補強に留めていたんですね。
……
Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
