【バルディ分析】「Jリーグ的ではない」ガンバ大阪。ヴィッシングが築く可変型ポゼッション
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#17
ガンバ大阪(前編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はクラブ・イタリアのマッチアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第17&18回は「典型的なJリーグのサッカーとは少し違う」とバルディが評したイェンス・ヴィッシング率いるガンバ大阪。保持を軸にしながら、試合によって縦志向にもローブロックにも姿を変える。その柔軟性を支えているのは、整理された原則と、選手たちの高い戦術理解力。就任からわずか3カ月ながら、すでに明確な輪郭を見せる新生ガンバを“分析のプロ”が徹底的に読み解く。(本文中の数字は4月28日の取材時点)。
柔軟性を支える“整理された原則”
――今回取り上げたのは、ロジャー・シュミットの副官を長く務め、これが監督として独り立ちして最初のチームという38歳のドイツ人、イェンス・ヴィッシングが率いるガンバ大阪です。
「広島にしてもこのガンバ大阪にしても、いわゆる典型的なJリーグのサッカーとは少しフィロソフィやスタイルが異なっているように見えます。これは多様性という点で非常に好ましいことだと思います。異なるスタイルが互いに影響し合って進化していく可能性が生まれますからね。今後他の国にもネットワークが広がるとさらに面白くなると思います。
このガンバ大阪にしても、明確なアイデンティティを持っていますが、それは極端なものではなく、むしろ試合によって異なる戦術的アプローチを取る柔軟性も持っています。ポゼッション寄りの試合をしたかと思えば、別の試合ではより縦志向を強める。アグレッシブに前に出ることもあれば、ローブロックで受動的に振る舞うこともある。時にはトランジション志向の試合もする、という具合です。これらすべての状況において、チームはよく組織されており、よく定義された明確な原則に基づいてプレーしているように見えました。就任してまだ3カ月ということを考えれば、監督は非常にいい仕事をしていると言えるでしょう。このチームが、Jリーグの序列の中でどのくらいの位置を期待されているかはわからないのですが……」
――強豪クラブなので、おそらくACL圏内が目標というところじゃないでしょうか。
「今まで見てきたチームと比べても、それにふさわしいレベルにあるように見えます。データに目を向けても、枠内シュート数、ポゼッション1回あたりの保持時間で2位、ポゼッションのアクション数で4位です。他方、被ドリブル突破数、被枠内シュート数はリーグでも下位に留まっている。自陣ファーストサードでは状況をコントロールするのに苦労している部分もあるということになるでしょうか。最も改善の余地があるのもそこですね」
――基本的には、主導権を握って戦いたいチームですよね。
「ええ。能動的だし、ほどほどにアグレッシブでもあります。ただ極端な方向に振れているわけではなく、あらかじめ決まったプレーパターンを遂行するよりも状況を読んで解釈することが選手に求められているという印象を受けます。主導権を握ってゲームを支配することを好みますが、いつリズムを落とすべきか、試合をコントロールすべきか、相手にどこまで譲るべきかも知っている。これまで見てきたJリーグの平均的なチームと比べて、フィジカル能力が優れているようにも見えます。90分を通してパフォーマンスが安定しており、後半にペースが落ちることがあまりない」
ハイラインを支える最終ラインと“非対称”の攻撃配置
――基本システムは[4-2-3-1]ですね。まず個々の選手をざっと見ていきましょうか。今回分析したのは、4月19日の岡山戦、22日の福岡戦、25日の長崎戦と、中2日で続いた3連戦です。
「正GKは東口だと思いますが、私の見た3試合のうち2試合は若い荒木がプレーしていました。かなり積極的なプレースタイルで守備範囲も広く、押し上げた最終ライン背後のスペースもよくカバーします。ゴールエリア内での守備はまずまずで、シュートへの対応は安定していましたが、クロスやCKへの飛び出し、セカンドボールなど混乱した状況での判断には、迷いも見られました。とはいえ、2007年生まれでまだ18歳だということを考えれば、積極的に出場機会を与えることが成長のために最も必要なことですから、試合に出すのはいいことだと思います。ビルドアップにも積極的に参加して、ボールを要求しますし、それを普通にこなすパーソナリティも備わっている。東口については、岡山戦に出場していましたが、困難な対応を求められる場面がほとんどなかったので、何とも言えません。ビルドアップに積極的に参加していたのは荒木と同じです。
最終ラインは、私が見た試合では右から岸本、中谷、三浦、初瀬という構成でした。右SBは半田がレギュラーだと思いますが、故障欠場していたので岸本がその穴を埋めていたのだと思います。2人のCB、中谷と三浦は強靭な体格を持ち、空中戦に強い。互いを見ながら非常にうまく連携して動いていました。最終ラインは常に高く、中盤ラインとの間隔もコンパクトに保たれています。チームはボールの動きに連動してよく動いており、コミュニケーションと連携があることがわかります。中谷と三浦はその中心であり、チームの背骨だと思います。リーダーシップという点でも、その振る舞いとコミュニケーションを通じて、チームメイトに勇気、アグレッシブさ、落ち着きと安心感を伝えるカリスマ性があるように見える。
右SBの岸本は攻撃的なタイプのように見えますが、1列前のウイングが右利きの山下で、ほぼ常に大外で幅を取っていることもあり、それを追い越して上がって行くことはあまりなく、保持時には後方からそれをサポートする位置取りをすることが多い。ただ、ボールを持った時のプレー選択がやや遅く、彼のところでプレーがワンテンポ遅れる場面が何度か見られました。左の初瀬はより攻撃的で、早いタイミングで敵陣に進出し、左ウイングの食野が中に入るのに合わせて大外で幅を取り、ウイングのように振る舞います。ただ、試合によってはそれを抑えて、1レーン内側に入って組み立てをサポートすることもある。そのあたりはゲームプランによっても変わります」
――中盤から上も、レギュラーの顔ぶれはほぼ固まっているように見えます。
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
