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【footballista TALKレポート】ポルトガルモデルは移植できるのか。“安く売る構造”を変える横浜FCの挑戦

2026.04.23

footballista TALKレポート#4

「footballista TALK(フットボリスタ・トーク)」は、国内外のサッカーに精通する専門家を招き、特定のテーマをめぐって議論を深めていくトークイベントだ。その内容を要約したレポートを、WEB版として公開する。

第3、4回のテーマは、「育成大国ポルトガルのSDと考える、Jリーグのポストユース成長戦略」。UDオリヴェイレンセのヒカルド・フェルナンデスSDと、横浜FCの重田征紀SDが、日本サッカーが直面する構造的課題に切り込んだ。

前編では、育成大国ポルトガルが「選手売却による移籍金収入」をクラブ経営の根幹に据え、いかにして若手の出場機会を保障するエコシステムを構築しているかを紐解いた。後編では、横浜FCの事例を軸に、育成の「フィロソフィ」と、日本独自の課題に対する実践的なアプローチを深く掘り下げる。ポルトガルモデルを日本にどう適用するのか――その成否を分ける具体論に迫る。

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なぜ横浜FCは結果を出し続けるのか――アカデミー躍進の裏側

 近年、横浜FCのアカデミーは、2024年のプレミアリーグEAST(高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ)での優勝や、継続的な年代別代表選手の輩出など、目覚ましい成果を上げている。この躍進の裏側には、綿密に計算された「育成の哲学」が存在する。

 重田氏は、強豪ひしめく関東という過酷な環境下で結果を残し続ける理由を、「一貫したフィロソフィの構築」に求めた。

 「国内でも周り(関東)に強豪チームがたくさんある中で、横浜FCがどうやって特徴を発揮していくかという部分の一貫したフィロソフィを構築している点が大きな要因だと思います。横浜FCは8歳、9歳という若い年代からスカウティングして、長い年月をかけて育てていくことを徹底しています」

 この育成の特筆すべき点は、プロに昇格するような選手が6年以上もの時間をかけてクラブのDNAを吸収していることだ。幼少期の選抜クラスから一貫して関わり続けることで、横浜FCのスタイルや文化を熟知した選手がユースの主力となり、トップチームへと昇格していく。

 スカウティングの基準も明確だ。重田氏によれば、「その時のパフォーマンスレベルよりも、ポテンシャル(可能性)をいかに見抜くか」をスカウト陣は常に意識しているという。どのポジションにどのような選手が必要か。その基準はトップチームの監督が交代しても揺らぐことはない。「ぶれない統一した選手像」を掲げているからこそ、アカデミーでの育成と、トップチームの強化が地続きでつながっているのだ。

 もちろん、この仕組みを支えるのは、指導者たちの圧倒的な情熱と環境整備にある。いい選手を惹きつけ、彼らが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を用意する。そうした地道な努力の積み重ねが、毎年プロ選手を輩出する「横浜FCブランド」を形作っている。

プロ契約の早期化はなぜ進むのか?「価値」を守る戦略

 育成における哲学の徹底と並び、近年Jリーグで変化の兆しを見せているのが「プロ契約を結ぶタイミング」の早期化だ。かつては高卒後の契約が一般的だったが、現在は17歳や18歳でプロ契約を結ぶケースが珍しくなくなった。横浜FCも2024年8月に、当時高校2年だった前田勘太朗とプロ契約を締結した。

 この変化について、重田氏は「選手の価値を最大化するための戦略的判断」であると説明する。

 「プロ契約をする選手(の年齢)は早くなってきている現状はあります。その要因としては、選手の価値を上げていくとともに、将来的な移籍も想定しているからです。若い選手はヨーロッパへ行きたいという志向を強く持っています。選手をプロテクトするというニュアンスもありますが、プロ契約を結ぶことで選手としての価値を確立し、移籍金収入を得ていくような取り組みを行っています」

 重田氏の言葉には、欧州で主流となりつつあるビジネスモデルの浸透を試みるJリーグの現場のリアルが凝縮されている。かつて育成は「クラブの将来を担う戦力」を育てるためのものだったが、今は「グローバル市場で適正な価値を証明し、次のステップへ送り出す」ための投資活動としての側面が強まっている。

 選手本人に対しては「プロであるという責任」を自覚させ、対外的には「この選手には価値がある」というシグナルを送る。ヒカルド氏が語った「防波堤としてのプロ契約」の考え方は、今や日本のクラブにも着実に受け継がれ始めている。

前田勘太朗(左から2番目)

出場機会は“設計できる”のか。ローン戦略とIDPの実像

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Profile

白谷 遼

2025年度まで縄手猟名義で活動。サッカー専門媒体『エル・ゴラッソ』で東京ヴェルディを担当。これまで日本代表、Jリーグ、大学・高校サッカーなど、プロアマ問わず幅広く活動している。小学校の頃に見たパク・チソン、イ・ヨンピョの活躍に感銘を受けて韓国サッカーにハマった埼玉県民。韓国サッカーに深い造詣があり、興味の守備範囲は広い。

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