【footballista TALKレポート】なぜポルトガルは高く売れ、Jは安いのか。ポルトガルSDが明かす“移籍金ビジネス”の全貌
footballista TALKレポート#3
「footballista TALK(フットボリスタ・トーク)」は、国内外のサッカーに精通する専門家を招き、特定のテーマをめぐって議論を深めていくトークイベントだ。その内容を要約したレポートを、WEB版として公開する。
第3、4回のテーマは、「育成大国ポルトガルのSDと考える、Jリーグのポストユース成長戦略」。UDオリヴェイレンセのヒカルド・フェルナンデスSDと、横浜FCの重田征紀SDが、日本サッカーが直面する構造的課題に切り込んだ。
18歳から21歳にかけての「ポストユース年代」は、出場機会の不足によって成長曲線が鈍化しやすい。では、なぜポルトガルは若手を“価値”へと変換し続けられるのか。
議論から浮かび上がったのは、「いかにして選手を“価値=移籍金”へと変換するのか」というロジックであり、育成論にとどまらない「クラブ経営」と「移籍市場」を前提とした出口戦略の設計だった。これは、Jリーグが次のフェーズへ進むための具体的なヒントでもある。
「スポンサー依存」からの脱却。“選手資産”という答え
ポルトガルの育成がなぜこれほどまでに成功しているのか。まずは、その根幹にある「クラブ経営の哲学」についてヒカルド氏に聞いた。
ヒカルド氏によれば、ポルトガルサッカー界が今のビジネスモデルへと転換したのは1980年代までさかのぼる。ポルトガルは、国自体の経済規模が大きくないため、メインスポンサーからの広告収入に依存する経営手法には限界があることを、当時からクラブ関係者たちは理解していた。そこで彼らが導き出した答えが、クラブの資産を「選手」に見出し、育成した選手を海外のビッグクラブへ売却することで得られる移籍金によって経営を拡大させていくという戦略だった。
若手の欧州移籍が加速し、多くのJリーグクラブが「移籍金をどう残すのか」という問題に突き当たる中、ポルトガルのクラブは30年以上も前に、この「育成・移籍金ビジネス」へと舵を切っていたのだ。
この戦略転換は、ポルトガルの国内クラブの投資先を根本から変えた。営業活動と同時に、クラブが優先すべきは「選手を育てる仕組み」だった。ヒカルド氏はこう話す。
「大きなクラブたちは、まずはユースカテゴリーの仕組み作りに投資をしていきました。優秀なコーチがいないと選手たちは育ちません。いい選手たちをピックアップするにも、いいスカウトたちがいないといけない。若い選手たちを育てる施設も必要になるので、そういった部分に着目して、今まで投資をしてきました」

この先行投資が、今や莫大なリターンを生んでいる。ポルトガルのビッグ3(ベンフィカ、FCポルト、スポルティング)の一角であるベンフィカは、スポーツ国際研究機関CIESが発表した2014年から2023年までの10年間で「最も収益性の高いアカデミー世界トップ100」の1位に輝いた。数十年前から続けてきた未来を見据えた投資が、確実に実を結んでいるのだ。
「出場機会=価値」――日本が学ぶべき戦略的投資
ヒカルド氏の語る「ビジネスモデルとしての育成」に対し、日本の現場で苦心する横浜FCの重田氏も深く同意する。
「『スポンサー収入よりも移籍金収入』という考え方が前提であるところが、ポルトガルと日本との大きな違いかなと感じました。やはり、そこで選手の価値をどう上げていくかという部分では、出場機会をいかに作りながら、選手の価値を上げていくことが不可欠です」
このビジネスモデルはビッグ3だけの特権ではない。ブラガやヴィトーリア・ギマランイス、ファマリカンといった中堅クラブも、一貫した育成方針で毎年のように移籍金収入を確保している。さらに、トップリーグに限らず、2部に所属するクラブでさえも、「育成による価値創造」を重要な収益の柱と位置づけ、積極的に若手選手へ投資を続けているのがポルトガルの現状だ。
この戦略的投資の真髄は、いかにして若者に「実戦の場」を保障するかという環境設計にある。
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Profile
白谷 遼
2025年度まで縄手猟名義で活動。サッカー専門媒体『エル・ゴラッソ』で東京ヴェルディを担当。これまで日本代表、Jリーグ、大学・高校サッカーなど、プロアマ問わず幅広く活動している。小学校の頃に見たパク・チソン、イ・ヨンピョの活躍に感銘を受けて韓国サッカーにハマった埼玉県民。韓国サッカーに深い造詣があり、興味の守備範囲は広い。
