ガスペリーニの亡霊か、それとも進化か。セリエAに広がる“戦術の均質化”はなぜ起きた?
CALCIOおもてうら#67
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、フットボリスタWEBの特集『現代サッカーは本当につまらなくなったのか――インテンシティと最適化が奪った“余白”の正体』を起点に、その問いをあえて「イタリアサッカー」に引き寄せて考察。近年のセリエAに広がる戦術の均質化と、それがもたらす“弱体化”と“退屈”の相関関係を読み解き、その先にあるカルチョ再生の可能性を探る。
「弱体化」と「退屈」はなぜ同時に進む?カルチョの現在地
今フットボリスタWEBで進んでいる『現代サッカーは本当につまらなくなったのか』という特集を目にした時に、なぜかはわからないが、筆者の頭の中でこの特集タイトルが「イタリアサッカーは本当につまらなくなったのか」という問いに変換されて立ち上がってきた。
それは、2月から3月にかけて、同誌で『イタリア代表はなぜ、弱くなったのか』という特集を担当して、イタリアサッカーが抱える問題にがっつり向き合ったせいかもしれない。もちろん「弱くなった」と「つまらなくなった」は、そもそものところでは次元の異なる話だ。しかし、現地で30年以上イタリアサッカーの「解釈と観賞」に努めてきた立場からすると、今のカルチョはこの2つが分かちがたく絡み合っているように見えることも確かである。
「弱くなった」に関して言えば、イタリア代表が3大会連続でW杯本大会出場を逃したことはともかく、クラブレベルでも、今シーズンのイタリア勢は欧州カップ戦で早期敗退を喫している(CLはラウンド16で全滅、CL、ECLもベスト8止まり)。CL優勝は09-10のモウリーニョのインテルが最後だ。
欧州で取り残された戦術――ラームが突きつけた現実
4月の初めには、元ドイツ代表キャプテンのフィリップ・ラームが、英『ガーディアン』に掲載された「スペイン流がCLで勝つための優位性を持ったモデルとして台頭する」というコラムで、バイエルンがアタランタに圧勝したCLラウンド16を取り上げて、「2年前にレバークーゼンを破ったアタランタのマンツーマン守備モデルは乗り越えられた」「今、支配的なのはスペインモデル。現代サッカーを支配しているのはスペイン人の監督たちであり、マンツーマンではなくボール基準の組織的な守備だ。イタリアは取り残された」と、かなり辛辣にイタリアを叩いていた。
「つまらなくなった」の方も、現状はあまり明るいものではない。今のセリエAで幅を利かせているのは、低重心3/5バック(今季のセリエAでは大半のチームが[3-5-2]を選択している)の布陣からロングボールを蹴り合い、マンツーマン守備でお互い潰し合う、スペクタクルとは口が裂けても言えないようなサッカーだ。失点しないことよりも得点することに軸足を置いて戦っているのは、コモ、ユベントス、ボローニャ、ラツィオ、サッスオーロなどごく一部のチームに限られる。1試合平均得点2.56は5大リーグ最低。得点王レースもトップのラウタロ・マルティネス(インテル)は16得点止まり、それに続くのがニコ・パス(コモ)の12得点という低調ぶりだ。
3バックとマンツーマンの“量産型化”が招いた停滞
とはいえここで、マンツーマンや[3-5-2]を悪者にすればそれで何かが解決するのかと言えば、もちろんそんなことはない。話はそれほど単純ではないからだ。マンツーマンを例にとっても、今イタリアで用いられている守備戦術は、ラームが上の記事中で触れている「トイレまでついていく」ような、いわゆるオールコートマンツーマンとは限らない。
ゴールキックや後方からのビルドアップに対してはマンツーマンでハイプレス、奪い切れなければミドルブロックで人に強く基準を置くゾーン内マンマーク、自陣に引いてのローブロックではスペース管理を優先してマークを受け渡す――というように、エリアによって異なる原則を使い分けて守っているチームも少なくない。攻撃する側は相手の守備戦術に応じて攻め方を変え、守る側もそれを見てすぐに対策を考え修正する、といった駆け引きが日常的に行なわれている。
[3-5-2]、もっと言えば[3-4-2-1]なども含めた3バックのシステム全般にしても、十把一からげにして論じるのは乱暴に過ぎる。
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
