進化の余白を残すGK林彰洋。ベガルタ仙台が百年構想リーグで築く、次なる戦いへの“圧倒的基盤”
ベガルタ・ピッチサイドリポート第36回
ベガルタ仙台にはスペシャルな守護神がいる。38歳という年齢にもかかわらず、毎年のように進化し続けている林彰洋だ。今季もPK戦で全勝するなど、圧倒的なパフォーマンスを披露しているベテランが、“ほぼ独演会”だったというインタビューで熱く紡ぎ出した言葉の数々を、おなじみの村林いづみに過不足なくすくってもらおう。
4度のPK戦ですべて勝利。38歳の強烈な存在感
明治安田J2・J3百年構想リーグ第6節のSC相模原戦。3-1で勝利したこの試合でもGK林彰洋選手は絶対的な存在感を示した。彼の様子をDAZNで実況した仙台放送の金澤聡アナウンサーはこう表現した。「進化の余白を残す、林彰洋」と。仙台の守護神、現在38歳。毎年ベストパフォーマンスを叩き出す彼は、まだまだ未来への可能性を秘めている。
90分引き分け時にPK戦のある百年構想リーグにおいて、仙台は林の見事なパフォーマンスで、ここまで4度のPK戦をすべて勝利している。毎試合、少なくとも1本は当たり前のように相手のキックを止めるが、それが当たり前ではないことは明白だ。今季すでに3度フラッシュインタビューを受けながら「僕が連続でお立ち台に上がることなんてもうないと思う。僕らは前を向いて、チャレンジすると同時に結果を残す。足りないところは個人でも反省しながら積み重ねていきたい」と謙虚に先を見据える。

桐蔭横浜大学から加入したルーキーのGK髙橋一平選手は「今、アキさん(林の愛称)と一緒にできていることが幸せ。盗んで盗んで、いつか追いつき、追い越したい」とキラキラした瞳で見つめる。生きた教材、GKチームで最も大きな存在感を放つ林から学べることは無限にあるはずだ。
一緒に取り組んで3シーズン目となる植田元輝GKコーチはこう言う。
「アキは未だに進化している感じです。僕の仕事は、試合中どんなプレーをするかということを整理することがメインですけど、彼はそれを頭の中でさらに整理してピッチで表現する能力に長けています。今年GKの役割もちょっと変わってきて、例えば攻撃の関わり方もシステムで変わっている。そこで役割の変化にも柔軟に対応している。
『こんなイメージでプレーしよう』ということをみんなで共有するんですけど、それをピッチで描くのが速いです。他の選手も十分良いのですが、アキは毎回みんなを超越するぐらい良くなってしまう。要因は一つじゃないと思うんですけど、一番はピッチで起きている状況を相当よく見ている。映像を使って振り返りをする時に、『このシーンどうだった?』って聞くと、うわーって一人で喋るんですよ。そうしたら僕も、もうそれ以上言うことはないんです。『だね』って言うぐらい(笑)。
ゴール前に相手が何人いて、味方が何人いて、ボールを持っている選手はどういう状況で、他の選手は何しようとしていて、みたいなことを瞬時に彼の頭の中で捉えていて、それに対して自分がどうするかという判断をする。『状況把握して、予測を立てて、準備して、決断して、プレーする』という大きなサイクルを回すんですけど、そのサイクルのスピードが速く、精度がめちゃめちゃ高いかなと思います」

「アキは練習でしたミスを試合では絶対にしない」(植田元輝GKコーチ)
チームで一番おしゃべりな林のことを話すと、コーチまで饒舌になってしまうのだろうか。林がすごいということは誰もがわかっている。ではプロの目線から、彼のどこがすごいのか。
「アキのすごさというところで言うと、一番わかりやすい例では、僕が担当しているこの2年ちょっとの間、公式戦のピッチで彼のミスで失点したというシーンを思い出せるかと言ったら、僕は1シーンぐらいしか思い出せないです。出てこないということは、ミスがほぼ起きてないということ。失点する時はどこかにミスがあるんですけど、彼が要因で起きた失点っていうのは、ほぼない。
練習で難しいシチュエーションを敢えて作っていますが、練習でしたミスを試合では絶対にしない。ミスが起こった時は一人でぶつぶつ何か言いながら整理する。自分とも対話しているんですね。まだまだ進化しますよ。だからこそ、次の2026/27シーズンでJ1に上がりたい。J1で彼がどれくらいできるかを見たいんです」
今、林彰洋選手は何を考え、どのように日々を送り、いかに百年構想リーグを戦っているのか、本人に伺ってみた。地元のテレビ番組では「林彰洋のおしゃべり部」という冠コーナーまで持つ彼だ。インタビューという形ではあるものの、トークの舵取りは彼にお任せ。自由に話してもらいたい。覚悟はしていたが、“ほぼ独演会”となったことも、先にご報告しておこう(取材は3月26日に実施)。

もがきながら成長をはかる。勝つために「後出しじゃんけん」ができるチームへ
――百年構想リーグもいよいよ折り返しまで来ました。この特別なシーズン、林選手はどのようなことを感じていますか?
「僕がベガルタ仙台に来て4年目になりました。ここまでの3年間で培ったものとは、また別のチャレンジができる一つの大会なのかなと思っています。世間では『チャレンジのリーグだ』と言われ『何でも試せばいい。若手を試せばいい。そういう場だ』と言われるんですけど、僕はちょっと見方が違っています」
――詳しく教えてください。
「この百年構想リーグは、もちろんチームがこれまでできなかったトライができるタイミングでもあるんですが、このチームが『今後やっていく上での基盤を作るタイミング』だと思っています。そういうところで言うと、若手を試すタイミングということも、もちろん一理ある。でもどちらかというと、この先ベガルタ仙台が勝っていく上でどういうやり方をしたら良いか。どういうやり方が理に適っていて、相手を困らせるシチュエーションを作ることができるか。それを年間通してやっていくための“圧倒的基盤を作る数ヶ月”だと思っているんですね。だからそこに食い込めない奴は、厳しいことを言えば、次のシーズンに臨むにあたって、やっぱり戦力にはなれない選手たちになってしまう。だから意地でも、ここで絡んでこなければいけない」
――シビアですが、百年構想リーグでは全員の成長が求められますね。
「新しいチャレンジはシステムの面で、今まで[4-4-2]の中でやっていた役割も全部変わります。だからそこに対する順応性、意識などでついて行くことのできる選手だけが、今後ベガルタ仙台の戦力になれる、という位置づけの数ヶ月だと思うんですよね。もちろん、1、2回のチャレンジじゃ、簡単にはものにできるわけではないと思います。個人も役割もシステムもいろんなものが変わっていますしね。
一つの例で言えば、相良(竜之介)にとってやりやすかったポジション(左サイドハーフ)、今までやっていた気持ちいいポジションというものがなくなった。これまで以上にもがかなければいけないという現状がある。だからこそ成長できると思っています。そのまま彼がやりやすいような形だけを作ってやることが、彼やこのチームの成長にはなるわけではないと思うんです」
――林選手もGKというポジションで、システムが変わった上での変化はありそうですね。
「GKというポジション自体は変わらないですが、やっぱりいろんなチャレンジが生まれている。そういうことに関しては、今ベガルタ仙台の選手が本当に改革期というか、すごく良い時期を過ごしているんじゃないかなという風に思っています」

――ベガルタ仙台としてはJ2に降格してから、常に「J1復帰、昇格」を目指していく中で、こうした大きな変革を起こすことのできる年はなかったと思います。その重要な期間として過ごしているのですね。
「そうですね。やはり結果にはこだわりながらですが、実際に昇降格のあるシーズン中だったら、もう一段階ピリつくわけです。相手も勝ち点3をもぎ取ってくるチームなのか、堅くなり勝ち点1を持っていこうとするチームなのか、いろいろ分かれますが、今回の百年構想リーグは、少なからず『イケイケで行っていいよ』という感じで捉えられていることが多いと思うんです。でも僕は、これが2026/27シーズンに入った時に、チームによっては、その色が様変わりするのかなという風に思っています。かつ、昇格争いと残留争いが絡んでくると、本当にもっと冷酷になるというか、そんなシチュエーションが出てきてしまう。
結局、一昨年、去年も我々が戦うにあたって、3バックの相手や後ろを固めた相手に時間をうまく使われたり、局面局面でファール気味に来られて自分たちの優位性が出せなかった試合がありました。そういう試合では、ことごとく後手に回り、それを2年間解除できなかった。それを解除するタイミングが今だと思うし、この数試合で兆しが見えてきているんです。
相手が前から来ても『こういうボールの回し方で相手の矢印を折れるよね』とか。『じゃあ、こっちに来たら俺らにはこっちがあるよね』っていう、いろんな“後出しじゃんけん”ができるような状況になっています。ゴリさんはずっと言っていましたけど、選手やチームとしてもそのアイディアがなかったり、技術が追いついてなかった。でも今はそれにトライできる選手たちがいるし、選手の意欲というものを含めて、やっぱり面白いなって思っています」
――そういう意欲の表れなのでしょうか。試合後にいろんな選手の皆さんにお話を聞いても、勝ったとしても突き詰めるべきところがあるからか、常に満足していないし、納得していないコメントも聞こえてくるんです。
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Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。
