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“色”を持った指導者、ロジャー・シュミットを招聘した背景。責任者・秋山祐輔が明かすJ.LEAGUE Europeのミッション(後編)

2025.12.26

世界から見たJリーグ#5

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→リーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第4&5回はJ.LEAGUE Europe初代プレジデント秋山祐輔氏のインタビュー。後編では、リーググローバルフットボールアドバイザーとしてロジャー・シュミットを招聘した意味、その他海外拠点のメリットを活かした新たな施策について熱く語ってもらった。

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10年越しの悲願が実ったロジャー・シュミット招聘

――J.LEAGUE Europeの役割はJリーグと欧州サッカーの距離を様々な面で近づけることと言えそうですね。

 「はい。先ほど日本人の監督はオフシーズンに自腹を切って、欧州へ視察に行っているという話がありましたよね。本当に素晴らしいと思いますが、ただ一方で、現実的になかなか行けない、という指導者の方もいると思います」

――そうですね。資金や家族の問題、編成や移籍などそれぞれに事情があるので、行けない年もあるし、行けても超短期になってしまう年があると、聞くことはあります。

 「その点で実現させたかったのが、日本に欧州の大物指導者を招くことです。Jリーグは今年10月、グローバルフットボールアドバイザーとして、ロジャー・シュミット氏と契約しました。12月8日から12日には、U-16 Jリーグ選抜の合宿で、彼に指導してもらいます(※インタビューは12月初旬のため合宿はすでに終了)。

 単なるビッグネームというわけではなく、やはりロジャー・シュミットは“色”を持っている指導者で、ザルツブルクから始まり、レバークーゼン、PSV、ベンフィカなど様々な欧州クラブで活躍してきました。合宿は彼が自分のサッカーの“色”をどうやって落とし込むのかを目の前で見られる機会になると思います。指導者やSD向けのプログラムもありますし、3月にはU-16 Jリーグ選抜の欧州遠征を指導してもらう予定です。契約は来年6月までの9カ月間ですが、その中で世界基準の“色”の作り方、彼のメソッドをシェアできたら、Jリーグにとって価値があるのではないかと思います」

ロジャー・シュミットグローバルフットボールアドバイザー(提供:Jリーグインターナショナル)

――レッドブル系スタイル実践の先駆者の1人とも言える、ロジャー・シュミットのチーム作りを日本で見られるのは、確かに貴重な機会です。

 「なかなか、つかまえるのも簡単ではなかったですけど、当初から人間的にも本当に素晴らしくて、久々に男として惚れましたね」

――どういう経緯でロジャー・シュミットと知り合ったんですか?

 「レターを書きました。今年3月にマドリッドでフットボールのカンファレンスがあり、参加者リストにロジャー・シュミットの名が載っていました。そのカンファレンスにはWEBからメッセージを送る機能があったので、思いの丈をワーッと書いたら、その日のうちに返信をもらえて。その後、カンファレンスで実際に会い、30分くらい話したのがきっかけですね。当初はJリーグの監督として、私たちが作っている監督リストの目玉に入れたいと考えていたんですけど、本人としては今この瞬間は基本的に監督をやらないというのが大前提でした。わずか半年の間にも、監督オファーをどれだけ断ったのか、というくらいだったみたいです。

 その後はほぼ毎月会って、話し込んでいたら、リーグとの協力だったらあり得るかもしれない、という話になってきました。それはもちろん素晴らしいことなので、7月には野々村チェアマンと一緒にロジャー・シュミットの家へ行って、チェアマンからもいろいろ話してもらいました。そこで方向性ができ、さらに8月、9月と詰めて無事、10月からスタートできました。

 ちょっと話が逸れますけど、彼が2014年にザルツブルクにいた時、私がエージェントをしていた南野拓実の獲得について話が持ち上がり、調べたらザルツブルクはロジャー・シュミットが面白いサッカーをしていると。南野がここに入ったらすごく良いなと、どんどん話が進み、2015年1月に加入することになったんです。ただ、ロジャーは2014年夏にザルツブルクを辞めてレバークーゼンに行ったので、一緒にはできませんでしたけど、それが初めてロジャーを認識したタイミングでした。

 私の中では10年越しというか、その後もチャンスがあれば、彼に日本へ来て欲しいなと勝手に思っていましたが、相当大物だったのでなかなか機会は訪れず、今回はいろいろなタイミングや縁があったと思います」

――10年越しの悲願が実現したわけですね。ロジャー・シュミットには11月に行われたU-18 Jリーグ選抜のウェールズ遠征にも帯同してもらったそうですが、様子はどうでしたか?

……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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